研修完了率でわかるのは、実施の事実までです
研修担当者は、コース修了率のレポートを毎月まとめ、経営層への報告に使っています。ただ、修了率が高い月であっても、受講者が学習内容をどこまで理解しているかは、その数字だけでは判断できません。
研修完了率とは、何を示す指標か
完了率の算出方法
研修完了率は、多くの場合、研修を修了した受講者数を、受講対象者数で割って算出します。ただし修了の判定基準はシステムによって異なり、すべての教材を最後まで視聴したことを条件とする場合もあれば、確認テストで一定の点数を取ることを条件とする場合もあるのです。どの基準を採用しているかによって、同じ受講者集団でも完了率の数値は変わってきます。算出方法を確認せずに数値だけを比較すると、実態とは異なる評価につながることもあります。
示す範囲と示さない範囲
この指標が示すのは、受講者が研修の過程を最後まで進んだかどうかという、実施の事実だと言えます。動画を最後まで再生した、資料を最後まで読み進めたという行動は反映されますが、内容をどこまで理解し、業務の場面で使える状態にあるかまでは、完了率という一つの数字には表れません。研修が実施されたことと、学習の内容が身についたことは、別の問いなのです。この二つを混同したまま運用を続けると、数字の改善だけを目的にした対応に偏りかねません。
修了する行為と、理解する行為の違い
最後まで進める条件
教材を最後まで再生する、資料を最後のページまでめくるといった行動は、内容を能動的に処理しなくても完了できます。倍速再生や、画面を開いたままにしておく操作でも、システム上は視聴を完了した記録が残ることがあります。修了の判定に必要なのは、最後まで到達したという事実であり、その間に何を考えたかまでは問われないのです。
理解を要する行為との違い
一方、学んだ内容を自分の言葉で説明する、状況に応じて選択肢を比較する、判断の理由を述べるといった行為には、内容を能動的に処理する過程が欠かせません。この種の行為を経て初めて、知識は記憶に残りやすくなり、必要な場面で引き出せる状態に近づきます。完了率が捉えているのは前者の行動であり、後者の行為が伴っているかどうかは、別に確かめる必要があるのです。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
理解度の把握を阻む、確認の手間
全員分の確認は個別対応
受講者一人ひとりが、研修内容をどこまで理解しているかを確かめるには、本来、追加の確認テストや面談といった個別の対応が必要です。しかし、研修担当者が受け持つ受講者数は数十人から数百人に及ぶことも珍しくなく、全員分を丁寧に確認する時間を、日々の業務と並行して確保するのは容易ではありません。
記録に残るのは完了の有無まで
多くの研修システムが記録しているのは、受講の有無、修了の有無、学習にかけた時間といった項目にとどまっているのです。どの学習ポイントで理解が浅いのか、どの種類の問いで回答を誤りやすいのかといった、内容に踏み込んだ情報までは、通常の運用の中では残りにくいものです。
把握の対象が、完了から理解へ
活動の設計負担が軽くなる
研修の途中に、判断を求める問いや、選択肢を比較させる場面を組み込むと、受講者が能動的に処理する機会は増えます。ただ、こうした活動を一つずつ設計し、教材の更新のたびに作り直す作業には、相応の労力がかかっていたのです。AIがこの準備の一部を引き受けることで、判断や回答を伴う活動を、より多くの教材に組み込みやすくなります。設計そのものを任せきりにするのではなく、負担の重い工程を引き受けてもらう形に近いといえます。
学習ポイント単位で確認できる
受講者が判断や回答を重ねる活動が増えるほど、研修担当者が確認できる情報も、完了の有無だけでなく、どの学習ポイントで回答のばらつきが大きいかといった単位にまで広がります。ただし、その情報をどう読み取り、次の研修設計にどう反映するかは、引き続き担当者の判断に委ねられます。情報が増えた分だけ、確認そのものに割く時間も新たに必要になるのです。
月次報告が、完了率から点検リストへ
報告の中身が変わる
これまでは、経営層への月次報告といえば、コース別の完了率を並べた一覧が中心でした。学習ポイント単位の情報を確認できるようになると、報告の中に、理解にばらつきが出ている項目や、繰り返し誤答が集まる箇所を含められるようになります。完了率だけの報告に比べ、次に何を見直すべきかが伝わりやすくなると言えます。
見直しの対象を絞り込める
理解にばらつきが出ている学習ポイントが分かれば、研修担当者は教材全体を作り直すのではなく、該当する箇所から見直しに着手できます。全項目を一律に点検する必要が薄れる分、更新の負担は抑えやすくなります。ただし、どこをどう直すかを判断し、実際に手を入れる作業自体は、これまでと同様に必要なのです。
重要なポイント
研修完了率が示すのは、受講者が研修の過程を最後まで進んだという事実です。内容をどこまで理解し、業務で使える状態にあるかは、この一つの数字だけでは判断できません。完了率を高める取り組みと、理解の質を高める取り組みは、別の課題として扱う必要があると言えます。両者を同じ指標で管理しようとすると、どちらの取り組みも中途半端になりやすいのです。
研修の進め方を見直す際は、完了率だけでなく、どの学習ポイントで理解にばらつきが出ているかを確かめる視点を持っておきたいところです。この視点があれば、教材のどこに手を入れるべきかを、全体ではなく該当箇所に絞って判断できるようになります。見直しのたびに全項目を洗い直す必要も薄れていくのです。