能動的学習で読み解くラーニングピラミッドの数字
経営層から研修効果を問われるたびに、能動的学習を促すとされるラーニングピラミッドの数字を根拠として提示する研修責任者は少なくありません。ただし、その数値の出典を尋ねられると、返答に窮する場面も見られます。
ラーニングピラミッドと能動的学習の全体像
ピラミッドが示す方法の序列
ラーニングピラミッドは、学習方法を保持率の高さで並べた図です。講義を聞く、資料を読む、映像を視聴するといった方法は図の上部に置かれ、話し合う、実際にやってみる、人に教えるといった方法は下部に置かれます。下に位置する方法ほど、学んだ内容が記憶に残りやすいという考え方を示した図として、研修設計の場でたびたび引用されます。
情報を自ら処理する学び方
能動的学習とは、学習者が情報を受け取るだけでなく、問いに答える、自分の言葉で説明する、実際の場面を想定して判断するといった形で、学んだ内容を自ら処理する学び方を指します。図の下部に並ぶ方法の多くは、この能動的な処理を伴う点で共通しており、聞く、読む、見るという受動的な方法とは性質が異なります。ラーニングピラミッドが強調しているのは、方法の種類そのものよりも、学習者が能動的に関わる度合いだと言えます。
数字の精度より問うべき仕組み
検証しにくい数値の出どころ
ラーニングピラミッドの保持率として紹介される数値は、資料によって組み合わせや呼び方が異なることが少なくありません。出典をたどっても、元になった調査の詳細まで確認できる例はわずかであり、数値そのものを厳密な測定結果として扱うことには無理があります。研修設計の根拠として引用する際は、この点をふまえておく必要があるのです。
処理の深さが左右する記憶
一方で、学習者が情報をどう処理するかによって記憶の残り方が変わるという考え方自体は、学習に関する幅広い知見と重なります。聞く、読むという受け取り方にとどまらず、自分の言葉で説明する、判断を下すという処理を挟むほど、学んだ内容は記憶に残りやすくなります。ラーニングピラミッドの価値は、細かな数値よりも、この仕組みを言い当てている点にあると言えます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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全コースへの導入と更新の壁
コースごとに要る個別設計
手元にある研修コンテンツの多くは、資料を見せる、話す、読ませるという形で作られています。これを、答えさせる、判断させるといった能動的な形に組み替えるには、対象とする業務内容や想定される場面をコースごとに検討し直す必要があり、担当できる本数には限りがあります。
更新に追従できない能動要素
業務内容や製品情報が変わるたびに、能動的な要素を含む部分も見直しが必要になります。設計にかけられる時間は増えないまま対象範囲だけが広がるため、更新が追いつかず、当初は用意していた能動的な場面が古い内容のまま残ってしまうことも起こります。
能動的な設計を広げやすい条件
コンテンツごとの設計負担
研修コンテンツの多くは、資料を見せる、話す、読ませるという受動的な形で作られてきました。これを、質問に答える、判断を求めるといった能動的な形に組み替えるには、通常、コースごとに個別の設計作業が必要です。AIが構成の整理や設問の初稿づくりを引き受けることで、1本ごとにかかっていた設計の手間が軽くなり、能動的な要素を取り入れやすくなります。
更新に追従しやすい設計
能動的な要素を一部のコースだけに絞らず、幅広いコンテンツに組み込めるようになると、業務内容や制度が変わった際の作り直しにも対応しやすくなります。ゼロから設計をやり直すのではなく、既存の構成を土台に、変更部分だけ手を加える形に近づくため、担当者の負担がすべてなくなるわけではないものの、更新のたびに発生していた重い作業は抑えられます。
完了率から実践の手応えへ
学びが受け身から参加型へ
能動的な要素が一部の研修に限らず、日常的なコンテンツにも組み込まれるようになると、受講者が向き合う学習の中身も変わります。動画を最後まで見る、資料に目を通すという行為だけでなく、示された状況に対して自分なりの答えを出す、学んだ内容を自分の言葉で言い直すといった場面が、より多くのコースの中に増えていきます。
参加の中に見える理解の差
受講者が能動的に応答する場面が増えると、研修担当者の手元に残る情報も、参加したかどうかだけではなくなります。どのような問いに安定して答えられ、どこでつまずきやすいかという、より具体的な手応えが見えてくるため、経営層への報告も、実施回数だけに頼らない形に近づいていきます。
重要なポイント
ラーニングピラミッドが示す保持率の数字は、出どころを明確に説明しにくいものが少なくありません。この記事の中心にあるのは、数字そのものよりも、学習者が情報をどう処理するかによって記憶の残り方が変わるという仕組みです。研修設計を考える際は、この仕組みの理解を先に置くことが役立ちます。
研修コンテンツを見直す際は、ラーニングピラミッドの数字を根拠として掲げるだけでなく、受講者が実際に答える、判断する、説明するといった能動的な場面をどれだけ用意できているかを基準にすることが有効です。その場面を更新し続けられるかどうかも、確かめておきたい観点です。