インストラクショナルデザインを何に使うか、三つの判断
年度の研修報告に並ぶのは、実施回数と受講率です。ただ、その研修で何ができるようになったのかを経営層から問われると、手元の数字では答えきれません。設計をどこで使うかは、教材を作る場面だけの話ではないのです。
扱う範囲の切り分けと、学習の組み立て
学習で埋まる部分と、埋まらない部分
インストラクショナルデザインを何に使うかと問われて最初に来るのは、研修で扱う範囲の切り分けです。新人の受注が伸びないという相談が事業部門から入ったとき、原因が製品知識の不足なのか、案件の割り振りや上司の同席の頻度なのかは、まだ分かれていません。学習で埋められる部分と、業務の進め方やマネジメントで扱う部分を分けたうえで、研修の対象を決めます。切り分けずに全部を研修に入れると、受講者の時間は伸びる一方で、何が変わったのかは見えにくくなるのです。
めざす水準から逆算します
もう一つは、学習の中身の組み立てです。受講者が研修を終えた時点で業務の何をできる状態になるか、その水準を先に決めます。そこから逆算して、何を読み、何に答え、どこで理解を確かめるかまでを一続きで並べていきます。分析から評価までを工程として整理したADDIEのような枠組みも、広く知られています。ただ、枠組みが示すのは進め方の順番までで、その中で何をどこまで求めるかという判断は、担当者の側に残ると言えます。
作る場面で終わらない、設計の判断
水準は、報告の裏づけにもなります
設計の段階で決めた水準は、研修が終わったあとにも使えます。何ができる状態をめざしたのかが文書として残っていれば、実施後に確かめる対象も、その水準に沿って選べます。受講率と修了率だけを並べた報告と、どこまでを研修で扱い、どの学習単位で理解のずれが出たかを添えた報告。次に何を直すかの見当がつく範囲は、この二つで違ってきます。
改訂のたびに戻る、前回の判断
設計は、研修コースを作り終えた時点で完結する作業ではありません。製品や制度が変われば、扱う範囲も、求める水準も見直すことになります。このとき手がかりになるのは、前回どの判断でその範囲に決めたのかという記録です。それをたどれれば、直す対象は今回変わった部分に絞り込めます。設計でいったん決めた判断には、次の改訂でもう一度立ち返ることになるのです。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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毎回ゼロから積み上げる負担
先に並ぶのは、期日のある業務
研修部門では、年間計画の実施を回すことに時間の多くが向きます。日程の調整、受講者の集約、実施後の集計まで、期日の決まった業務が先に並びます。扱う範囲をどこで切り、どの水準までを求めるか。この判断に充てられるのは、そのあとに残った時間になりがちです。
書き起こす工程までは組めません
判断そのものも、担当者の経験の中にとどまりやすいものです。研修コースの企画から講義、実施後のフォローまでを少人数で受け持つ体制では、なぜその範囲に決めたのかを書き起こす工程までは組み込めません。担当が替わるたびに、同じ検討をもう一度たどることになります。
確立された構成を再利用できる条件へ
構成が安定した研修から
企業の研修には、構成が比較的安定しているものがあります。新入社員研修、コンプライアンス研修、製品知識研修などです。こうした研修では、学習ポイントの分量、確かめる場面の置き方、教える順序といった判断を、確立された構成として再利用できる範囲が広がってきました。毎回ゼロから積み上げていた判断のうち、繰り返し出てくる部分は、AIが引き受けられるようになったためです。
確かめる作業に、時間が回ります
変わるのは、研修チームが時間を割く先です。構成を組み直す作業から、今回扱う業務内容がその構成に合っているか、求める水準が受講者の経験に対して高すぎないかを確かめる作業へ。時間の使い先が入れ替わっていきます。どの構成を選び、どこまでを研修で扱うと決めるのは担当者であり、その判断に割く時間がなくなるわけではありません。
使いどころが、企画の段階へ
相談を受けた時点から使えます
設計の使いどころは、教材を作る段階よりも前に移ります。相談を受けた時点で、学習で埋められる部分と、業務の進め方やマネジメントで扱う部分を切り分けたうえで、研修の中身を決められるようになるのです。事業部門との話も、何本の研修を何日で用意するかではなく、どこまでを研修で引き受けるかから始められます。
報告に添えられる、確かめた範囲
決めた水準と、それを確かめる場面は、記録として残ります。年度の報告でも、実施回数と受講率だけでなく、どこまでを研修で扱い、何をどこまで確かめたかを添えられます。ただし、そこから分かるのは、用意した条件のもとでの受講者の様子までです。現場で同じ判断ができるかどうかは、業務の進め方や上司の関わり方にも左右されます。
重要なポイント
インストラクショナルデザインを何に使うかという問いに、教材づくりの手順という答えだけを当てると、使いどころは狭くなります。研修で扱う範囲を切り分ける段階、学習の中身を組み立てる段階、そして実施後に何を確かめるかを決める段階。いずれも同じ設計の判断が働いており、そこで決めた水準は、研修が終わったあとにも残ります。
研修の企画に入る前に、二つの問いを置いておくと、判断はぶれにくくなります。この課題は学習で埋められるのか、それとも業務の進め方やマネジメントで扱う部分なのか。そして、研修を終えた受講者に、何ができる状態を求めるのか。先に書き出しておけば、教材の分量や形式の議論も決めやすくなります。