行動変容を促す研修は、どこまでを担うのか
ゴールを現場の行動に置く研修
行動変容を促す研修とは、知識を伝えて終わりにせず、受講後の現場での行動をゴールに含めた研修の総称です。ロールプレイング、現場での実践課題、上司との振り返り面談。進め方の名前は違っても、研修の終わりを修了時点ではなく現場での実践に置いている点は共通しています。だからこそ、研修部門が引き受ける仕事の範囲も、当日の運営だけでは収まらなくなるのです。
どこまでを研修が受け持つのか
一方で、現場の行動が変わるかどうかは、研修の内容だけで決まるものではありません。上司がどこまで関与するか、業務の進め方や評価の仕組みが新しい行動を後押しするか、必要なツールが手元にあるか。現場の行動には、こうした条件も同時に関わってきます。そのうえで研修が確かに担えるのは、現場で判断が必要になった場面で、学んだ内容を思い出して自分の言葉で組み立て直せる状態をつくるところまでです。行動変容の前提を整える仕事だと言えます。
順序どおりには出てこない現場の知識
手がかりは、状況の側から来ます
研修の場では、講師が組み立てた順序に沿って説明が進みます。前提から具体例へと並ぶため、受講者は流れに乗って理解できるのです。ところが現場では、顧客の質問や部下の相談といった状況の側から手がかりが来て、必要な知識を一つだけ取り出すことになります。知っているはずの内容が出てこないのは、この手がかりの向きの違いによるものです。
思い出す経験が挟まっているか
この差を埋めるのは、受講者が自分で思い出して言葉にした経験です。解説を読み返す、動画をもう一度見るといった確認も理解を助けますが、思い出す作業そのものは含みません。何も見ない状態から答えを組み立てた受講者は、同じ内容を後から取り出しやすくなると言えます。上司の関与や業務の進め方と違って、ここは研修部門が自ら設計に組み込める部分です。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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回り切らない出番と、残らない記録
一人あたり数分に縮む持ち時間
受講者が20人を超える研修で、一人ずつ思い出して答える順番を回すと、一人あたりの時間は数分に縮みます。解説も演習も質疑も入る研修の枠で、その時間だけを長く取ることはできないのです。答えるのは手を挙げた数人にとどまり、残りの受講者は聞く側のまま研修を終えます。
報告に残るのは、修了率と満足度です
研修後に時間を置いて確かめる工程も、通常業務のなかには置きにくいものです。3カ月後にどこまで取り出せるかを一人ずつ聞いて回る時間は、研修部門にも受講者にもありません。経営層への報告に残るのは、実施回数と修了率、それに満足度の回答。どの学習ポイントで取り出せなかったのかまでは、記録に残らないと言えます。
繰り返し用意できる、一人ひとりの出番へ
準備にかかる工数が変わります
研修部門の手元には、業務マニュアルや過去の事例集、社内の手順書があります。こうした文書から、受講者が自分の言葉で答える課題の素案をAIが組み立てられるようになると、設計の入口にかかる工数が変わります。講師が時間を向ける先も、素案づくりから、扱う範囲の絞り込みや、想定した状況が実務に合うかの確認へと移っていくのです。内容を確かめて公開を認める判断は、これまでどおり講師の仕事として残ります。
順番を待たずに答える機会
受講者の側では、講師や相手の空きを待つ必要が薄れます。答えた内容にその場で反応が返るため、まとまった時間が取りにくい人でも、思い出して言葉にする機会を持てるようになると言えます。一定の間隔を空けてから、同じ内容をもう一度取り出す形も組みやすくなります。ただし、機会が増えても準備や確認の手間はなくならず、その課題が業務に照らして妥当かを見るのは講師と現場の役割です。
一日で完結させる形から、間隔を置く設計へ
研修後にもう一度取り出す設計
行動変容を促す研修の設計は、当日ですべてを終える形から離れていきます。研修の前に一度考えて答え、当日は答えが分かれた箇所を持ち寄り、数週間後にもう一度同じ内容を取り出す組み方。間隔を置いたこうした流れが組みやすくなります。当日の進行に合わせて出番の数を削る必要も薄くなっていくのです。
つまずいた学習ポイントが見えます
一人ひとりが答えた内容が残るため、どの学習ポイントで取り出しにくさが出ているのかを、研修部門がつかみやすくなります。経営層への報告にも、修了率以外の材料を添えやすくなると言えます。ただし、そこから分かるのは、用意した課題と条件のもとでの学習の状況までです。現場の行動が変わったかどうかは、上司の関わり方や業務の進め方とあわせて見る必要があります。
重要なポイント
行動変容を掲げた研修でも、現場の行動が変わるかどうかは、研修の内容だけでは決まりません。研修が確かに担えるのは、必要になった場面で学んだ内容を思い出し、自分の言葉で組み立て直せる状態をつくるところまでです。行動変容の前提を整えるうえで、その状態をつくれているかどうかは、まず確かめたい点の一つになるのです。
進め方を見直すときは、受講者一人ひとりが自分の言葉で答える機会が組み込まれているかを確かめると、どこから手を入れるかが決まります。あわせて、その機会が研修当日の一度きりで終わっていないか。間隔を置いて取り出す場面まで組めていれば、修了率の数字だけでは見えない差をつかみやすくなります。