アクティブラーニングのファシリテーターに必要な、判断の材料
アクティブラーニングを取り入れた研修では、ファシリテーターの進行技術にまず関心が集まります。ただ、当日その人が行っているのは、受講者の反応を見て次に何を扱うかを選ぶ判断の連続なのです。
ファシリテーターとは、学びを引き出す役割
受講者の言葉を引き出す進行役
アクティブラーニングのファシリテーターとは、知識を説明して伝える講師ではなく、受講者が自分の言葉で考えを述べ、判断を示す場面をつくり、その内容を受け止める進行役です。グループワーク、ケーススタディ、教え合いなど、進め方の名称はさまざまですが、受講者にアウトプットを求め、それに応じる構図は共通しています。講義そのものをなくす役割ではありません。説明する時間と、受講者が答える時間を組み合わせ、その配分を場の状況に応じて決めていきます。
当日の仕事は、次の一手を選ぶこと
当日のファシリテーターの仕事は、用意した進行表をなぞることではありません。受講者から返ってきた答えを聞き、どこで理解が食い違っているかを見立て、次にどの論点を扱うか、どこを補うかを選びます。求められるスキルとして場の設計、傾聴、質問の立て方が挙げられるのは、いずれもこの選択のためです。研修責任者が育成の対象として扱いたいのは、話し方の巧拙よりも、この見立てと選択の精度なのです。
次の一手を左右する、受講者の理解の状態
同じ設問でも、次の一手は変わります
たとえば、値引きの判断基準を扱う場面で、受講者から的を外した答えが返ってきたとします。その答えが、基準そのものを取り違えているのか、基準は分かっていて社内の承認手順を知らないだけなのか。どちらなのかによって、次に補うべき内容は変わります。ファシリテーターは、答えの正誤を判定しているのではなく、その受講者がどこまで理解できているかを見立てているのです。
見立てを支えるのは、手元の材料
この見立てには材料が必要です。誰がどの学習ポイントで取り違えているのか、どこまでは説明できるのか。それが分かっていれば、次の一手を選ぶ根拠になります。材料が乏しいまま進める場合、ファシリテーターは自分の経験と、その場の数人の反応から推し量ることになります。進行の技術を高めても、手元の材料が増えるわけではありません。だからこそ、ファシリテーターの育成では、技術と材料の両方を扱う必要があると言えます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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受講者の状態が見えないまま迎える当日
一度に読み取れる人数の限界
受講者が20人を超える研修で、進行しながら全員の理解の状態を読み取ることは難しいです。手が挙がるのは限られた人で、その数人の反応が手がかりになります。発言のなかった受講者がどこで取り違えているかは、当日の場では表に出ないままです。
研修前に分かるのは名簿まで
研修が始まる前に研修責任者の手元にあるのは、受講予定者の名簿と階層の区分までです。一人ひとりの前提知識を事前に確かめようとすれば、そのための設問や場面を用意し、回答を整理する作業が加わります。年間の研修計画を回しながら、この工程まで組み込む時間を確保できていないのです。
当日の読み取りから、事前の把握へ
答える場面を用意する負担
受講者に説明を求めたり、条件を比べて選ばせたりする場面を、既存の業務資料から組み立てるには、内容の整理と設問の下書きに時間がかかります。この準備をAIが引き受けると、研修チームは同じ人数のままでも、答える場面を学習の流れに置きやすくなります。どの場面を入れるか、内容が実務と合っているかを判断する工程は、これまでどおり人の側に残る部分です。
取り違えの集まる箇所が分かります
集まった回答を学習ポイントごとに並べ直す作業も、人手では負担の大きい部分です。整理にかかる手間が軽くなると、研修責任者やファシリテーターは、当日を迎える前に、どの学習ポイントで取り違えが集まっているかを確かめやすくなります。ここで分かるのは、用意した設問と条件のもとでの学習の状況までです。受講者が現場で同じ判断を下せるかどうかは、別に確かめる必要があります。
ファシリテーターの関与は、当日から前後へ
当日に残るのは、論点の検討
事前に受講者が答える場面を通していれば、当日に全員を一巡させて反応を探る前提は薄れます。取り違えが集まった箇所や、答えが分かれた論点をあらかじめ選び、その検討に時間を使いやすくなります。進行の途中で見立てを立て直す場面が減る分、ファシリテーターは論点の中身に向き合えるようになるのです。
担い手を広げやすくなります
これまで、ファシリテーターを任せられるのは、受講者の反応を読み取れる経験を積んだ担当者に限られていました。学習ポイントごとの状態が記録として残れば、経験の浅い担当者も、その材料を手がかりに進行を組み立てられます。ただし、その材料をどう読み、どこを補うかの判断は、引き続き担当者自身が担う部分です。
重要なポイント
アクティブラーニングのファシリテーターの働きは、話し方や場の運び方といった技術だけで決まるものではありません。受講者一人ひとりがどこまで理解できているかという材料が手元にあって初めて、次に何を扱うかの判断は具体的になります。技術を磨く取り組みと並んで、この材料を用意する仕組みも、育成で扱うべき対象の一つなのです。
ファシリテーターの育成や研修の進め方を見直すときは、二つの点を確かめると、手をつける場所が定まります。一つは、受講者が学習の流れのなかで答える場面があるかという点です。もう一つは、その結果が学習ポイント単位でファシリテーターの手元に届くかという点です。この二つがそろうと、当日の進行に頼る部分を小さくできます。