学習転移は、学習中の引き出し方で変わります
研修の満足度は高く、最終テストの点数も悪くありません。それでも、配属先で顧客に聞かれた瞬間に答えが出てこないことがあります。ただ、この差は研修後のフォローの量だけで説明できるものではないのです。
学習転移とは、業務で引き出せる状態
業務で引き出せて初めて成立します
学習転移とは、研修で学んだ知識やスキルを、実際の業務場面で使えている状態を指します。研修の最終テストで正解を選べることと、顧客から想定外の質問を受けたときに答えが出てくることは、別の状態です。前者はあくまで、教材という手がかりが目の前にある状態での確認。新入社員向けの製品知識研修であれば、配属先で製品の違いを聞かれたときに説明できるかどうか。そこまで届いて初めて、学習転移が起きたと言えます。
条件は、学習の側と職場の側の両方
学習転移を左右する条件は、大きく二つの側に分かれます。一つは、学習の側の条件。受講者が学習の途中に内容をどう扱ったかが、ここに入ります。もう一つは職場の側の条件で、上司の関与、業務の手順、使える道具などが含まれます。研修部門で話題になりやすいのは、後者のほう。研修後のフォローや上司への働きかけに関心が集まりがちです。ただ、学習の側の条件は、コースを設計する段階で研修講師が動かせる範囲にあるのです。
学習中と業務では違う、思い出す手がかり
教材が目の前にある前提
研修の場では、いま扱っている章やスライドという手がかりが目の前にあります。多少あいまいな記憶でも、そこから答えにたどり着けます。ところが業務の場面で手がかりになるのは、顧客の質問や目の前の状況だけ。教材のどこに書いてあったかを探す余裕はありません。読んで分かった状態と、聞かれて答えられる状態の間には、この手がかりの差が横たわっているのです。
学習中に引き出す経験を通るかどうか
この差を縮める手立ては、学習の途中で受講者自身に内容を引き出させることです。選択肢から選ぶだけでなく、手順を自分の言葉で説明する、似た二つの条件を比べて選ぶ。さらに、その場面の設定が実務に近いほど、業務側の手がかりでも思い出せる範囲は広がりやすくなります。学習中に一度も引き出していない知識は、業務の場面でも取り出しにくいままです。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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業務に近い場面を用意しきれない事情
設計に回せる時間には限りがあります
業務に近い状況設定と設問は、職種や階層ごとに作り分けることになります。営業向けと管理部門向けでは、想定する場面が重なりません。ここで壁になるのは、担い手の数。企業内研修講師の多くは、ニーズ調査からコース設計、講義、研修後のフォローまでを一人で担っています。年間の研修計画を回すだけで手はふさがり、場面の作り分けまではなかなか手が届かないのです。
作った場面が古くなる速さ
製品の仕様や社内の手順が変わると、作り込んだ場面の前提も合わなくなります。改定のたびに設問を見直す余裕はなく、結果として、どの職種にも当てはまる一般的な確認テストに寄っていきます。業務から遠い設問ほど、作る負担は軽いと言えます。
一方通行の配信から、答える場面のある学習へ
場面に組み替える負担が軽くなります
業務に近い場面を用意する作業では、手元の資料を読み込み、どの条件を問うかを決め、設問の下書きを作るところに時間がかかります。AIがこの準備の部分を引き受けると、研修講師は同じ工数のままでも、受講者が答える場面を学習の流れに挟みやすくなります。どの場面を入れるか、その内容が自社の実務に合っているか。そこを判断して承認する作業は、引き続き講師の手元に残ります。
一から作り直さずに済む更新
製品や手順が改定されたとき、関連する場面を探して直す作業そのものはなくなりません。それでも、資料の該当箇所から設問の下書きまでをAIが用意できれば、以前のように一から組み立て直さずに済みます。業務の現状に合った場面を保ち続けることが、現実的な選択になるのです。
学習転移への備えは、研修後から学習中へ
現場に出る前に、一度は答えています
学習の途中に答える場面が入っていれば、受講者は業務でこう聞かれたらどう答えるかという経験を、研修の中で一度は通ってから現場に出ます。研修講師のフォローも変わります。全員に同じ資料を送り直すのではなく、つまずきの多かった箇所を選んで補う形に切り替えられるのです。
整うのは、学習の側の条件まで
ただし、ここで整うのは学習の側の条件までです。学んだ内容が実際に業務で使われるかどうかは、上司の関与、業務の手順、使える道具にも左右されます。学習の記録から読み取れるのも、用意した場面での受講者の応答まで。現場の行動が変わったこと、業績が動いたことまでを示す材料にはならないと言えます。
重要なポイント
学習転移を進めようとすると、研修後のフォローを厚くする方向に手が伸びがちです。ただ、学習の途中で一度も引き出していない知識は、あとから追いかけても取り出しにくいままです。研修後の働きかけを見直す前に、学習の途中に受講者が答える場面があるか。手を入れる順序が逆になっていないか、確かめたいところです。
自社の進め方を見直すときの手がかりは二つあります。一つは、学習の途中に受講者が自分から答える場面があるかどうか。もう一つは、その場面の設定が、業務で知識が必要になる状況にどこまで近いかという点です。どちらも欠けているうちは、研修後の働きかけを強めても、受講者が引き出せる知識は増えにくいと言えます。