シナリオ型学習は、選んだ理由まで確かめます
研修に業務の事例を持ち込み、受講者に対応を考えてもらう時間を設ける講師は増えました。ただ、模範解答を示して終わると、なぜその対応を選んだのかは、教える側にも受講者自身にも残らないのです。
前提条件を置いて、対応を選ぶ学習
出発点は、判断が要る状況
シナリオ型学習とは、業務で実際に起こりうる場面を前提条件つきで示し、受講者にその場でどう動くかを選んでもらう形式です。取引先から想定外の要望が入った場面、手順の例外を認めるかどうかを迫られる場面など、扱うのは正解が一つに定まらない状況になります。覚えた内容を答える設問との違いは、条件の組み合わせしだいで妥当な対応が変わる点です。だからこそ、場面の前提をどこまで書き込むかが、練習の手応えを左右する要素の一つになります。
選んだ後に、理由を尋ねます
もう一つの特徴は、選んで終わりにしない点です。どの条件を重く見てその対応を選んだのかを、受講者自身の言葉で説明してもらうところまでが一続きです。選択肢ごとに違う結果が返る分岐を用意しておけば、選んだ後に何が起きるかを見てから、もう一度考え直す流れも作れます。同じ選択でも理由が違えば、次に条件が変わったときの動き方も変わります。確かめたいのは選択そのものというより、その裏側にある判断の筋道と言えます。
練習になる場面と、ならない場面
現場のどの業務に当たるか
用意した場面が、受講者の担当する業務のどこに当たるのかを言えるかどうか。あいまいなまま作られたシナリオは、読み物としては成立しても、判断の練習にはなりにくいものです。扱う業務の範囲、関わる相手、判断に使える時間。こうした条件が実際の仕事とずれていると、受講者は自分の話として考えられません。担当業務のどの場面かがはっきりしていれば、条件を一つ変えるだけでも、考える中身は変わってくるのです。
どの選択肢にも成り立つ理由
分岐の作り方にも、同じことが当てはまります。明らかに不適切な選択肢が並ぶ場面では、受講者は消去法で正解を選ぶだけです。判断を試したいのであれば、どの選択肢にも選ぶ理由が成り立ち、そのうえで優先する条件によって結論が分かれる状態を作る必要があります。分岐は、選択肢の数ではなく、理由が併存しているかどうかで見ます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
状況と分岐の作り込みに要る時間
前提を書き起こす下調べ
現場で起きたことをそのまま持ち込んでも、シナリオにはなりません。判断が変わる条件だけを残し、それ以外を削る作業が要ります。どの条件を残すかを決めるには、担当部署への確認も挟まります。同じ業務でも、拠点や担当者によって前提が違うことは珍しくありません。
書き分けは、後ろへ回ります
選択肢を三つ置けば、それぞれに成り立つ理由と、選んだ後に返す結果を書き分けることになります。手順や制度が変われば前提も古くなり、同じ場面をもう一度組み直すことになるのです。担当する研修の本数が増えるほど、この作業に手をつける順番は下がっていきます。
状況の下書きから、条件の見極めへ
業務の文書から、場面の下書きへ
手順書、対応記録、製品資料。企業がすでに持っている文書をもとに、AIが場面の設定や選択肢の下書きをまとめると、講師が最初の一行から考え込む時間は短くなります。下調べに充てていた時間の一部を、別の作業へ回せるようになります。ただし、その下書きが自社の運用や現在の手順と噛み合っているかまでは、AIの側では判断がつきません。
講師が向き合うのは、理由の妥当性
下書きがあると、講師の仕事は、選択肢に添えられた理由が現在の制度や手順と食い違っていないかを確かめる側へ移ります。条件の置き方が現場と合わない場面は、書き直しが必要です。扱う場面が増えれば、確認の量も積み上がります。手間そのものは残るのです。それでも、時間の掛け方が書き起こしから確認へ移る分、一つの研修で置ける場面の数には余裕が生まれます。
一場面の練習から、流れに沿った練習へ
判断を試す回数が増えます
研修で扱える場面が一つに絞られていた状態から、業務の流れに沿って複数の場面を並べられるようになります。受講者は、条件が変わると妥当な対応も変わることを、続けて確かめられます。研修の場で分かるのは、あくまで用意した条件のもとでの判断です。それでも、考える機会そのものは増えていきます。
手順が変わったときの直し方
制度や手順が変わったときに書き直すのは、影響を受ける場面の前提条件と選択肢に絞られます。どの場面が影響を受けるのかを判断するのは、引き続き講師の役割です。それでも、研修全体を最初から組み直す進め方に比べれば、更新に必要な時間は読みやすくなります。
重要なポイント
シナリオ型学習を活動の形だけで捉えると、事例を配って話し合う時間との違いが見えにくくなります。条件が変われば妥当な対応も変わる場面を扱い、選んだ理由まで言葉にしてもらう。この二つがそろったときに、判断の練習として働きます。条件が動かない場面では、正解探しに戻ってしまうのです。
手持ちのシナリオを見直すときは、まずその場面が現場のどの業務に当たるかを言えるかを確かめます。次に見るのは、用意した選択肢のどれにも、選ぶ理由が成り立つかどうかです。この順番で点検すると、判断の練習というより手順の確認として読まれてしまうシナリオに、早い段階で気づけます。