インストラクショナルデザインの到達目標は、一つではありません
研修の企画書には、到達目標が一行だけ書かれていることが少なくありません。ただ、コース全体に一文を掲げても、どの学習ポイントでどこまでできるようになればよいかは、まだ決まっていないのです。
到達目標とは、どこまでできるかの基準
学ぶ側の行動として書きます
到達目標とは、学習を終えた受講者が実務でどこまで担えるようになるかを、外から見て分かる行動で示したものです。研修をなぜ実施するかという目的や、何を教えるかという学習内容とは、担う役割が違います。目的は投資の理由を説明する言葉。学習内容は、教える側が扱う範囲を指します。学ぶ側の行動として書かれて初めて、到達目標は扱う内容を選ぶ基準として働くのです。
めざす水準の幅
もう一つ、到達目標には水準の幅があります。用語や手順を知っている段階、自分の言葉で説明できる段階、条件を見て判断し実際にやってみせる段階。同じ新入社員研修でも、配属初日に必要なのは知っている段階までで、独力で顧客対応に立つ段階では判断まで求められます。どの段階をめざすかによって、扱う内容の深さも、必要な学習時間も変わってくるのです。水準を決めないまま目標を一文にまとめると、その一文は研修の趣旨説明にとどまります。
一文の目標と、判断する単位のずれ
目標の単位と、判断の単位
到達目標を一文でまとめると、その一文が対応するのはコース全体です。一方、担当者が実際に判断するのは、学習ポイント一つずつの中身になります。「新製品3種の違いを顧客に説明できる」という目標を掲げても、製品ごとの仕様をどこまで載せるか、価格の考え方に触れるかどうかまでは、この一文からは読み取れません。目標を書いた単位と、判断する単位がずれているのです。
水準は一律にそろえません
学習ポイントごとに、水準をそろえる必要もありません。用語の定義は知っている段階で足り、顧客への切り出し方は判断まで求めます。同じコースの中に、めざす水準の違う学習ポイントが並ぶのです。ここを一律に扱うと、知っていれば足りる内容に説明を積み増し、判断が必要な内容は用語の確認で終わることになりがちです。水準を学習ポイントごとに決めておくことも、設計が働くための前提の一つと言えます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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なぜ分けきる前に手が止まるのか
兼任体制に収まらない作業量
コース1本の学習ポイントは、数十に及ぶこともあります。そのすべてに、めざす水準と確かめ方を割り当てる作業。研修部門では、年間計画の立案から複数コースの実施運営、経営層への報告資料の作成までを少人数で分担しており、この作業に充てられる時間はごく限られます。
改定のたびに積み残ります
制度が改まり、製品や業務の手順が変われば、関係する学習ポイントの水準も見直しになります。教材の差し替えだけでは追いつきません。改定が年に何度も入る領域ほど、担当者はこの見直しを積み残していきます。手元に残るのは、最初に書いた一文の到達目標だけになりがちなのです。
分けて水準を置く負担が軽くなる条件へ
分ける下書きをAIが担います
既存のマニュアルや業務手順書を学習単位に分け、それぞれに説明を書き起こす作業には時間がかかります。この下書きの部分をAIが引き受けると、担当者が一から分け方を組み立てる負担は小さくなります。空いた時間は、分け方が業務の区切りと合っているか、水準の置き方が受講者の前提知識に対して無理のない範囲かを見極める側に回せるのです。
段階の並びも下書きから
水準を段階的に上げていく並びも、下書きの形で用意できます。知っている段階から説明できる段階へ、そこから判断を求める段階へ。どの学習ポイントをどの段階に置くかを決めるのは、これまでどおり人の側です。決める作業自体は残ります。それでも、白紙から並べ直す場合に比べれば、取りかかりは軽くなると言えます。
到達目標は、コース単位から学習単位へ
箇所ごとに書き分けられます
学習単位ごとに到達目標を置けるようになると、同じ資料から、知っていれば足りる箇所と、判断まで求める箇所を書き分けられます。受講者の側も、いま取り組んでいる箇所でどこまで求められているかを確かめながら進められます。研修の入口で一文を読むだけの状態とは、学び方が変わってくるのです。
単位ごとに整理できる材料
研修部門が経営層に示す材料も、受講時間や修了率だけではなくなります。どの水準の学習ポイントまでは安定して答えられているか、どこで理解のずれが起きやすいかを、単位ごとに整理できるようになるのです。ただし、把握できる範囲は、あらかじめ設けた設問や場面に対する学習中の反応にとどまります。現場で同じ判断に至れるかどうかには、業務の分担や上司の関わり方も影響します。
重要なポイント
インストラクショナルデザインの到達目標は、行動の言葉で書き上げた時点では、まだ設計の入口にとどまります。学習ポイントごとに、知っている段階までを求めるのか、判断まで求めるのか。めざす水準を一つずつ判断していく部分が、設計の本体にあたるのです。一文の目標は、その出発点にすぎません。
研修の組み立てを見直すときの手がかりは、二つあります。めざす水準が学習単位ごとに書かれているか。そして、その水準を改定のたびに置き直せる範囲に収まっているか。一度で細かく分けきろうとするより、続けられる単位から始めたほうが、書いた目標は残りやすくなると言えます。