認知負荷は、教材の外からも持ち込まれます
研修の当日、受講者は止めてきた業務や戻ってからの段取りを抱えたまま席についています。ただ、教材をどれだけ整理しても、この分の認知負荷は下がりません。講師が下げられる範囲には、はじめから区切りがあるのです。
教材の中と外にある認知負荷
教材の側で生まれる分
認知負荷とは、受講者がその場で同時に扱っている頭の使いどころの重さを指します。研修でこの言葉が出るとき、話題になるのはたいてい教材の側です。一度に出す項目が多い、図と説明が離れている、専門用語の断りが後から来る、前提となる制度の説明が飛んでいる。こうした作りだと受講者の負担は上がりますし、講師が手を入れれば下げられます。教材の側で生まれる分は、設計で調整できるのです。
席についた時点で始まっています
ただ、企業研修の受講者は、席につく前からすでに負荷を抱えています。午前中に止めてきた案件、戻ってからの段取り、研修の最中にも入ってくる連絡。どれも研修の内容とは関係のないところで、頭の一部を占め続けます。研修室の外に置いてきたつもりでも、休憩のたびに戻ってきます。学生を対象にした授業との違いは、ここにあると言えます。教材をどれだけ整理しても、この分は下がりません。業務を気にかけているのは当然のことであって、受け方の姿勢の問題ではありません。
力の入れどころを決めるのは誰か
同じ濃さで並ぶ教材の読まれ方
持ち込んだ負荷を抱えたまま、教材のすべてに同じ濃度で向き合える受講者はいません。それにもかかわらず、見出しの大きさも、説明の丁寧さも、演習の重さも一律のまま。新任管理職向けの半日研修で、制度の説明も事例の読み合わせも同じ分量で並んでいれば、どこで頭を使うかを決めるのは受講者の側です。選ぶ自由を渡しているように見えて、実際には、持ち込んだ負荷の上にもう一つ判断を積むことになります。
濃度をどこに置くかは決められます
下げられない負荷があると認めることは、打つ手がないという意味ではありません。講師の側で決められることが、一つ残っています。その回で本当に頭を使ってほしい場所を、一つに絞ること。一箇所が決まれば、残りは読んで筋がたどれる形で通せます。ただし、軽く通す部分は、省いてよい部分ではありません。扱う量そのものは変わらず、変わるのは、どこに時間を置くかだけなのです。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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濃淡をつけるほど増える作業
絞るほど増える作り分けの手数
一箇所に時間を置く組み方は、教材の作り分けを前提にします。頭を使ってほしい場所には、考える手順や答えの出し方まで用意します。軽く通す場所に置くのは、読んで筋がたどれる説明。同じ内容でも、扱いが違えば作りも変わると言えます。二つの作りを一つの研修に用意する手数は、そのまま準備の時間に乗ってきます。
同じ形で配るほうが早く終わります
社内講師の多くは、本業を持ちながら設計と講義の両方を担当しています。準備に使える時間は限られ、手元にあるのは日々の業務資料。そのまま配れば、作り分けの手数はかかりません。結果として、どの部分も同じ濃さのまま受講者に渡ります。濃淡をつけたほうがよいと分かっていても、その形に手が届かないのです。
手元の資料から組み立てる形へ
軽く通す部分の下地づくり
変わるのは、判断の中身ではありません。手元の業務資料から、軽く通す部分の教材を組み立てるまでの工数です。AIに任せられる範囲は、資料の並びを整え、読んで筋がたどれる説明の下地を用意するところまで。それでも、研修のたびに二つの作りを一から書き起こす、という前提は外れます。制度の改定があっても、下地の作り直しから始めずにすみます。
どこを重くするかは講師が決めます
下地ができても、そのまま渡せるわけではありません。書かれた内容が実務とずれていないか、どこまで説明すれば足りるかを判断するのは、講師の仕事として残ります。その回でどこを重くするかを決められるのも、業務の進み方を知っている人だけ。準備の手間がなくなるのではなく、その一部を、濃淡を決める側に回しやすくなるのです。
一点に力が集まる研修の受け方
力を入れる場所が見える回
濃淡がついた回では、受講者はその日いちばん頭を使う場所がどこかを、開始の時点で受け取れます。抱えてきた業務の心配が消えるわけではありませんが、限られた余力をどこに回すかを自分で探さずにすみます。説明を聞く段階でも、流してよいところと、手を止めて考えるところの見当がつくのです。
量そのものは同じまま進みます
軽く通す部分を省いたわけではありません。制度の条件も手順の例外も、これまでどおり研修の中で扱います。変わったのは、そこに置く時間の長さだけ。講師の側も、当日の進行が押したときに、どこを縮めてどこを守るかを決めやすくなります。扱う量が同じでも、どこに時間が集まっているかは、受講者にも講師にも見えます。
重要なポイント
認知負荷を教材の情報量だけの問題として扱うと、打てる手はすぐに尽きます。企業研修の受講者が抱えているのは、止めてきた業務の分まで含めた負荷。教材を整えても、そこは下がりません。講師が動かせるのは、残った力をどこに集めてもらうかという配分のほうです。負荷を下げる話と、置き場所を決める話は、別のものとして扱えるのです。
研修の組み立てを見直すときの手がかりは、その回で一番頭を使ってほしい場所を、一つ挙げられるかどうか。挙げられないまま全体を同じ強さで作り込むと、受講者は力の入れどころを自分で探すことになります。一つ決まれば、残りをどこまで軽く通すかも、あわせて決まってきます。