ジョブクラフティングが生まれる仕組み ―エンゲージメントの「好循環」を紐解く
エンゲージメント理論から考えるジョブクラフティング

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第1回で「フィードバック」第2回で「AIによる実践」をお伝えしてきましたが、なぜこれらがジョブクラフティングやエンゲージメントに効くのでしょうか。最終回となる今回は、その背景にある理論を紐解きます。

毎年エンゲージメントサーベイを実施し、1on1も定着させた。にもかかわらず「スコアが思うように上がらない」「次に何をすればいいのか分からない」と悩む企業は少なくありません。

その一因は、「エンゲージメント」という言葉があまりに広く使われ過ぎていて、何を指しているのかが曖昧なまま施策が進められていることにあります。

 

「エンゲージメント」という言葉を3つに分けて考える

まず整理したいのは、「エンゲージメント」には少なくとも3つの異なる意味が混在しているということです。

 

1つ目は、心理学者ウィリアム・カーン(Kahn, 1990)が提唱した「パーソナル・エンゲージメント」。自分らしくいられること、安心して自己表現ができることを指し、心理的安全性に近い概念です。

 

2つ目は、実務の現場でよく使われる「エンプロイー・エンゲージメント」。組織や会社そのものに対する満足度、愛着、忠誠心を指します。

 

3つ目は、Schaufeli & Bakker(2004)らが定義した「ワーク・エンゲイジメント」。仕事そのものに向けられる活力・熱意・没頭を指す、仕事への態度としての概念です。

 

このうち、価値創造に直結するエンジンとなるのは3つ目のワーク・エンゲイジメントです。「会社が好き」であることと、「仕事に没頭している」ことは、似ているようで別の状態なのです。

1つ目のパーソナル・エンゲージメントは、第1回のコラムで扱った心理的安全性とほぼ重なる概念です。第1回で述べた「心理的安全性が高くても、ワーク・エンゲイジメントが上がるとは限らない」という指摘は、学術的に言い換えると、パーソナル・エンゲージメントとワーク・エンゲイジメントという別々の軸を混同しないことの重要性として説明できます。

JD-Rモデル ―仕事の「要求度」と「資源」のバランス

ワーク・エンゲイジメントを決定づける要因を説明する代表的な理論に、「仕事の要求度-資源モデル」(JD-Rモデル)があります。オランダの心理学者デメロウティとバッカーらが2001年に提唱したこのモデルは、仕事を「要求度」と「資源」という2つの軸で捉えます

 

仕事の要求度とは、業務量の多さや時間的プレッシャー、心身への負荷など、エネルギーを消耗させる要素です。仕事の資源とは、裁量権、上司や同僚からの支援、成長の機会など、自律性や意欲を引き出す要素です。

 

このモデルが示す重要な点は、「要求度を減らすこと」だけがエンゲージメントを高める道ではない、ということです。高い要求度がある中でも、豊富な資源が投入されれば、人は成長意欲を刺激され、自ら成果を出そうとする好循環に入ることができます。逆に、要求度に対して資源が不足していると、エネルギーが一方的に枯渇し、バーンアウト(燃え尽き症候群)に向かってしまいます。

好循環の中で、ジョブクラフティングはどこに生まれるか

資源が投入され、ワーク・エンゲイジメントが高まった従業員に見られる代表的な行動が、ジョブクラフティングです。自分自身で仕事の資源をさらに増やし、日々のタスクや周囲との関わり方、仕事の捉え方を自律的にカスタマイズしていく動きです。

 

つまりジョブクラフティングは、単独で起こす「意識改革」ではなく、資源が適切に投入された結果として自然に生まれてくる、好循環の一段階だと捉えることができます。

組織がまずやるべきことは、従業員にジョブクラフティングを求める前に、その土台となる資源(裁量、支援、成長機会)を投入できているかを見直すことです。

 

裁量の小さい仕事にも、ジョブクラフティングは有効か

「うちは裁量の小さい仕事が多いから、ジョブクラフティングは関係ない」と思われるかもしれません。しかし、JD-Rモデルにおける「資源」とは、仕事の裁量権だけを指すのではありません。周囲からのフィードバックや承認、目的の共有といった「関わりや言葉」も重要な資源です。

 

ジョブクラフティングには、タスクそのものを変えることだけでなく、周囲との関わり方を変える「関係的な工夫」や、仕事の捉え方そのものを変える「認知的な工夫」も含まれます。周囲からの支援(資源)があるからこそ、こうした工夫が生まれるのです

 

ここで、「3人のレンガ職人」の寓話を紹介します。同じレンガを積む作業をしていても、「ただ石を積んでいる」と捉えている職人と、「生活費を稼ぐため」と捉えている職人、「後世に残る大聖堂を建てている」と捉えている職人とでは、仕事への向き合い方がまったく異なる、という話です。

タスクの裁量が小さい仕事であっても、仕事の意味づけや、周囲との関係性を変えることで、ジョブクラフティングは十分に機能します。

 

まとめ

ジョブクラフティングは、従業員の意識や頑張りに委ねるものではなく、エンゲージメントの好循環の中で生まれてくるものです。

組織にできるのは、この好循環の起点となる「資源」を、日々の学びや業務経験を通じてどれだけ投入できるかを設計することなのです。

 

UMUでは、こうした資源投入を組織全体で継続的に行えるよう、AIを活用した学習プラットフォームの提供と学習設計の支援、AI人材育成の伴走を行っています。

お問い合わせ先:https://www.umu.co/contact/

 


出典:Kahn, W.A.(1990)/Schaufeli, W.B. & Bakker, A.B.(2004)/Demerouti, E., Bakker, A.B., Nachreiner, F. & Schaufeli, W.B.(2001)

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