インストラクショナルデザインの基礎は、差の把握から始まる
新しく研修コースの設計を任された企業内研修講師は、限られた時間の中で、まず製品マニュアルの目次をそのまま並べ替える作業から着手しがちです。ただ、それは研修の入り口であって、基礎そのものを押さえたことにはなりません。
インストラクショナルデザインの基礎とは何か
内容整理ではなく判断の技術
インストラクショナルデザインとは、学ぶ内容を分かりやすく並べる作業を指す言葉ではありません。受講者が研修前にできないことと、研修後にできるようになってほしいこと、その差をはっきりさせたうえで、扱う内容、順序、学習活動、確認方法までを一貫して決めていく考え方です。ADDIEをはじめとするいくつかの枠組みは、この一連の判断に名前と手順を与えたものにすぎません。枠組みが違っても、根底にある考え方は共通しています。
起点になるのは学習前後の差
研修前後の差が明確になれば、扱う内容をどこまで広げるか、どの順序で提示するか、どんな学習活動を挟むか、習得をどう確かめるか。これらの判断はすべて、その差を基準に決められるようになります。逆に差が定まらないままでは、担当者ごとに広さや順序の感覚が異なり、同じ枠組みを使っていても、出来上がるコースの質にはばらつきが出やすいと言えます。差を起点にできているかどうかが、質を分ける最初の分かれ目です。
差は、一度決めて終わりではない
分析は最初の一手ではない
ADDIEのような枠組みは、分析、設計、開発、実施、評価という順序で工程を並べます。この並びを見ると、差を明らかにする作業は最初の一回で終わり、あとは決めた内容に沿って進めればよいように見えてしまいます。しかし、配属直後の受講者と実務経験を積んだ受講者とでは、そもそも埋めるべき差が違います。実際には、扱う範囲を絞るときも、順序を組むときも、活動の難易度を決めるときも、その都度この差に立ち返って確かめる必要があるのです。
判断のたびに立ち返る基準
この立ち返りを怠ると、扱う範囲は資料の分量に、順序は資料の並びに、活動の難易度は担当者の勘に、それぞれ流されていきます。同じ製品知識を扱う研修でも、この二つの受講者層に同じ順序と分量を当てはめれば、どちらかに合わない内容になりやすいと言えます。差を基準に据え続けているかどうかが、同じ枠組みを使っていても仕上がりに差が出る理由です。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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都度の確認に割ける時間がない
一人で何役も兼ねる講師
研修マネージャーや企業内研修講師は、対象者の調査、コース設計、講義、実施後のフォローまでを一人で兼ねることが少なくありません。差に立ち返って一つずつ確認する時間は、そもそも業務の中に組み込まれていないのです。日々の業務に追われるほど、その確認は後回しになりやすいと言えます。
決め直すより流用が早い
差に基づいて範囲や順序を一から決め直すには、判断の材料をそろえる時間が要ります。時間が足りないとき、選ばれやすいのは、手元にある製品マニュアルの構成をそのまま流用する進め方です。できあがったコースは形として完成していても、対象者の差に基づいて決めた内容とは限りません。
時間の使い道が、整理から判断へ
資料整理の負担が軽くなる
業務マニュアルや製品資料を、そのまま研修コースの形に整えるには、要点の抽出、構成の組み立て、説明文の下書きといった作業が必要です。AIがこれらの下ごしらえを引き受けると、担当者が一からこの作業をこなす必要は薄れます。整理の負担が軽くなれば、担当者はその分の時間を、コースの構成そのものに使えるようになります。
空いた時間は判断に使う
空いた時間を、扱う範囲をどこまで広げるか、対象者の前提知識に順序が合っているかといった、差に基づく判断の確認に充てられるようになります。整理にかかっていた時間が減るほど、対象者ごとの差を確かめる回数を増やせるのです。ただし、判断そのものをAIに委ねられるわけではありません。内容が実務と合っているかを確かめる作業は、引き続き担当者の役割として残ります。
差の確認は、一度きりから継続へ
初期設計でも確認を増やせる
整理にかかる時間が減った分、出来上がった構成を対象者の差に照らして見直す機会を、公開前に複数回設けられるようになります。配属直後の受講者と経験を積んだ受講者とで、扱う範囲を分けたほうがよいと気づいた場合も、公開前に手を入れやすくなるのです。見直す視点が増えるほど、対象者に合わない内容を公開前に減らせます。
更新のたびに見直せる
業務や製品の内容が変わったときも、教材を差し替えるだけでなく、その変更が対象者の差にどう影響するかを確かめる余地が生まれます。差を基準に据え続けられれば、更新のたびに構成を作り直す前提ではなくなります。ただし、この確認そのものにかかる手間がなくなるわけではありません。
重要なポイント
インストラクショナルデザインの基礎は、ADDIEのような枠組みの名前を覚えることでも、手順どおりに工程をこなすことでもありません。受講者の現状と、到達してほしい状態との差を明確にし、その差に、扱う範囲や順序、活動、確認方法までを一貫して結びつけ続けることに尽きます。
研修の進め方を見直すときに確かめたいのは、対象者の現状と到達してほしい状態との差が、言葉としてはっきり書かれているかどうかです。扱う範囲や順序、活動、確認方法のどれかを尋ねて、その差にたどり着けなければ、構成は資料の並びをなぞっているだけの可能性が高いのです。