なぜ、良かれと思ったフィードバックが逆効果になるのか

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「もっと主体性を持ってほしい」 「ちょっと説明が分かりにくいな」 「もう少しコミュニケーション能力を高めてほしい」

 

管理職であれば、一度はこうした言葉を部下にかけたことがあるのではないでしょうか。組織づくりの支援を仕事にしている私自身も、かつて公務員として働いていた頃、上司から似たようなフィードバックを繰り返し受けていました。
「前も言ったよね」「次からちゃんとメモを取ってよ」——反射的に返される、抽象的な指摘です。結果として何が起きたかというと、特に行動が変わることのないまま、同じ注意を受け続けるという時間が続きました。

 

こうしたフィードバックの多くは、決して悪意から出たものではありません。むしろ「育ってほしいから伝えている」という、上司の側の善意に基づくものがほとんどです。


しかし、本人のためを思って伝えたフィードバックが、本当に相手を成長させているとは限らない——このズレこそが、今回取り上げたいテーマです。

フィードバックは「すれば良い」とは限らない

 

フィードバックの効果については、研究者たちが古くから検証を重ねてきました。中でも代表的なのが、クルーガーとデニシによる1996年のメタ分析です。メタ分析とは、複数の研究結果を統合し、全体としてどのような傾向があるのかを統計的に検討する手法を指します。この研究では131の研究、607の効果量が統合され、フィードバックが本当に効果を持つのかが分析されました。

 

結果はシンプルですが、衝撃的なものでした。フィードバックによって平均的にはパフォーマンスが改善していた一方で、3分の1を超える介入では、パフォーマンスがむしろ低下していたのです。現状維持ですらなく、下がってしまう。つまり「部下のためだと思って行ったフィードバック」が、統計的に見ればかなりの割合でマイナスに作用していたことになります。

 

この結果は、フィードバックの「量」や「頻度」だけを気にしていても解決しない問題があることを示しています。たくさん伝えたからといって、行動が変わるとは限りません。では、効果を分けているものは何なのでしょうか。

効果を分けるのは「注意の向き先」

 

答えは、フィードバックが相手の注意をどこへ向けさせるかにあります。同じ改善を求める内容であっても、フィードバックには大きく分けて2つの向き先が存在します。

 

一つは「人への評価」です。「主体性がないね」「説明が下手だね」「傾聴力が足りないね」——こうした表現は、相手に「自分はどんな人間なのか」という自己像への問いを向けさせてしまいます。もう一つは「行動・課題への情報」です。「確認や提案がなかった」「結論まで3分かかっていた」「話の途中で3回発言していた」——これは相手に「次に何を変えるか」という具体的な問いを向けさせます。

 

前者のような、人に向けたフィードバックを受け取ると、相手の注意は自己評価そのものに向かいます。「自分は能力がないのだろうか」「自分はダメなのか」という方向に意識が流れ、肝心の課題からは注意がそれてしまうのです。これでは反省をして終わるだけで、次にどう動けばよいのかが本人に残りません。

 

厄介なのは、この「人への評価」タイプのフィードバックが、実は非常に頻繁に使われているという点です。管理職の多くは部下に対して優しく、「自ら考えてほしい」「答えをすべて教えてしまっては本人のためにならない」という思いから、あえて抽象的な言い回しを選んでいる場合が少なくありません。しかしその意図は、多くの場合、相手には伝わりません。

悪循環はこうして生まれる

 

「人への評価」に偏ったフィードバックを続けると、次のような悪循環が生まれやすくなります。

 

上司が抽象的な評価を伝える → 部下は何を変えればよいか分からない → 具体的な行動が変わらない → 上司は「何度言っても変わらない」と感じる → 本人への評価がさらに厳しくなる。

 

ここで見過ごせないのが、上司の側にも起きる変化です。「この部下は何を言っても変わらない」という思い込みを一度持ってしまうと、確証バイアスが働きます。確証バイアスとは、自分が抱いた先入観に対して、それを裏付ける情報ばかりを無意識に集めてしまう心理的な傾向のことです。部下が良い結果を出しても「たまたまだろう」と受け止め、期待をかけるフィードバックが減っていく。これは本人が意識してやっていることではなく、無意識のうちに起こります。結果として部下の成績は下がり、上司自身のフィードバックの質もさらに下がっていくという、双方にとって望ましくない連鎖が生まれてしまうのです。

 

逆に、フィードバックの向き先を行動に変えることができれば、この流れは反転します。相手が次に変える行動が明確になり、本人がそれを実際に試すことができる。試した結果が出れば本人の自信につながり、上司もその変化を観察できる——このように、フィードバックは「人への評価」から「改善のループ」へと設計を変えることができます。

行動を「実際に見える形」に変換する

 

では、具体的にどうすればよいのか。まず取り組みたいのは、人への評価を、実際に観察できる行動に変換することです。

 

人への評価 実際に見える行動
説明が下手 今回の説明では、結論が出るまでに3分かかっていた
傾聴力がない 相手が話し終わる前に、自分の意見を3回伝えていた
主体性がない 依頼された業務で、自分から確認・提案する行動が見られなかった

 

性格や能力を推測して言い当てる必要はありません。実際に見えた行動だけを扱えば、会話は前に進みます。会話の最初の一言を「あなたは●●だ」から「今回、△△していた」に変えるだけでも、相手の受け取り方は大きく変わります。

行動を伝えるだけでは、成長にはつながらない

 

ここで注意したいのは、行動を具体的に伝えるだけでは、実は成長にはつながらないという点です。「結論まで3分かかっていた」「途中で3回発言していた」と事実だけを伝えても、相手は「次にどうすればよいか」が分からないままです。

 

成長につなげるためには、フィードバックを次の3ステップで構成する必要があります。

 

  1. 行動 ——何をしていたのか。見えた事実だけを伝える。
  2. 影響 ——その結果、何が起きたのか。相手や周囲に及んだ影響を伝える。
  3. 次の行動 ——次回、何を変えるのか。すぐに試せる一手として伝える。

 

例えば「説明が下手だね」ではなく、次のように組み立てます。

 

今回、結論を伝えるまでに3分かかっていました。そのため、相手が何を判断すればよいのか分かりにくくなっていました。次回は、最初に結論を伝えてから理由を説明してみてください。

 

同じように、「傾聴力がない」であれば「相手が話し終わる前に、自分の意見を3回伝えていた。相手が十分に考えを説明できないまま会話が進んでいた。次回は、相手が最後まで話し終わってから意見を伝えよう」という流れになります。

 

「報連相が足りない」「詰めが甘い」といった、現場でよく使われる表現も、同じ型に当てはめることで、次に何を変えればよいかが分かる情報へと生まれ変わります。

相手によって、配慮すべき点は異なる

 

行動・影響・次の行動という型は、あらゆる場面に応用できますが、相手の状態によって伝え方に一段の配慮が必要な場合もあります。

 

一つは、落ち込みやすい相手です。心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した成長マインドセットと硬直マインドセットという考え方が参考になります。「努力すれば自分は何とかなる」と捉えられる成長マインドセットの人であれば、行動の事実をそのまま伝えても、次の改善につなげやすいでしょう。一方、「頑張っても自分は変わらない」と感じやすい硬直マインドセットの傾向がある人は、一つの行動への指摘を「自分の全てがダメだ」というように、能力や将来にまで広げて受け止めてしまうことがあります。この場合は、「これは能力の問題ではなく、練習すれば誰でもできることだから」という前向きな一言を添えることが、事実を正しく受け止めてもらうための助けになります。

 

もう一つは、マイクロマネジメントへの懸念です。行動・影響・次の行動を細かく伝えすぎると、かえって部下のやる気を削いでしまう場合があります。この場合に有効なのが、伝えた後に一言、質問を挟むという方法です。「この部分で気をつけなければいけないのはどこだと思う?」と問いかけ、相手に考えさせる。合っていればそのまま送り出し、ずれていれば重要な部分だけを補足する。一から十まで指示するのではなく、自ら考える機会を残すことが、行動への定着を後押しします。

 

最後に、自分より経験や年次が上の部下に対するフィードバックです。この場合は特に、人への評価に寄った言い方を避ける必要があります。「傾聴力を持った方がいい」という言い方は、裏を返せば「あなたには傾聴力が足りない」という人格への評価として受け取られやすく、角が立ちやすいためです。行動・影響・次の行動の型を使い、「意見を挟む回数を減らしてみてもよいかもしれません」というように、具体的な行動に絞って伝えることで、相手の経験への配慮を保ちながら、必要な変化を促すことができます。

おわりに

 

フィードバックの目的は、相手を評価することではなく、次の行動を変えることにあります。相手の性格や能力を言い当てる必要はありません。実際に見えた行動を扱い、その影響を伝え、次に試せる一手を示す——このシンプルな型を徹底するだけで、フィードバックは「言っても変わらない」ものから「次につながる」ものへと変わっていきます。

 

「これくらい言わなくても分かるだろう」という思い込みは、多くの管理職が一度は抱くものです。しかし、それは共通言語ではなく、具体的にしなければ伝わらないというのが、人間の性質だといえます。まずは一つの会話から、行動に注目したフィードバックを試してみてはいかがでしょうか。

 

 

【執筆者】株式会社HYBRID THEORY 代表取締役 丸山裕之 氏

栃木県で公務員を経験し独立。ハーバード大学やスタンフォード大学などの論文や研究データ、脳科学・心理学の文献などを年間700冊読み込む。科学的に効果が実証された方法で社内研修や、組織構築を提供する株式会社HYBRID THEORYを設立。また、脳科学に基づいた学習方法を用いた学習塾を運営している。能力や才能に関わらず、誰でも結果の上がる「科学的に正しい方法」を伝えて、個人の人生の満足や会社の利益向上を目指している。

 

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