「頑張れ」だけでは人は動かない――脳科学が解き明かす、部下のやる気に火をつける5つの条件
「エンゲージメントが高い組織は強い」——多くの方が感覚的にはご存じだと思います。
しかし、その正体を科学的に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、エンゲージメントとは何か、そしてそれを高めるために何をすべきかを、株式会社HYBRID THEORY 代表取締役の丸山 裕之氏の脳科学・心理学の知見からお届けします。
エンゲージメントとは、結局何なのか
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「やる気がある環境」「やりがいがある状態」——エンゲージメントについて聞かれると、こう答える方は多いものの、輪郭ははっきりしません。これを一言で言うならこうなります。
「ここで自分の力を発揮したい」と思えている状態かどうか
もう少し専門的に言えば、従業員が仕事や組織に対して抱く心理的な結びつきや情熱・意欲のこと。これは大きく3つの要素に分解できます。
- 情緒的エンゲージメント……仕事やチームに愛着ややりがいを感じている状態(「この仕事・このチームで働くのが好きだ」)
- 行動的エンゲージメント……情熱や貢献意識が、実際の行動として現れている状態(「このプロジェクトを成功させたい」)
- 認知的エンゲージメント……自分が組織に貢献できていると実感できている状態(「このチームで役に立ててうれしい」)
逆にこれらが欠けると、人は「時給で仕事をする人」になります。1,000円の時給なら1,000円分の仕事しかせず、頼まれた仕事の範囲を1ミリも超えない。
多くの企業が本当に求めているのは、こちらではなく、言われた以上のことを自ら進んでやってくれる人材です。
なぜ「上司」が重要なのか――エンゲージメントの70%はリーダー次第
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調査会社ギャラップの研究によれば、エンゲージメントの70%はリーダーによって決まるとされています。つまり、部下が「時給仕事」になるか「自走する人材」になるかの大部分は、マネジメントする側の関わり方次第だということです。
ギャラップ社の著書『ザ・マネジャー 人の力を最大化する組織をつくる ボスからコーチへ』(Q12として知られる調査項目)を踏まえると、エンゲージメントを高める上で特に重要なのは次の5点に整理できます。
| ポイント | 具体例 | |
| 1 | 期待が伝わっているか | 「次の案件、君に任せたい」と期待を込めて依頼する |
| 2 | 見てもらえている感覚があるか | 「昨日の商談、最後まで聞いてから提案したのが良かったね」と具体的に伝える |
| 3 | 一人の人間として大切にされているか | 「最近忙しそうだけど大丈夫?」と、業務連絡以外の一言をかける |
| 4 | 成長を実感できているか | 「3週間前と比べて、ここが変わったね」と変化を言語化する |
| 5 | 自分の仕事に意味があると感じられるか | 「あなたのおかげでここが良くなった」と貢献を伝える |
面白いのは、4番目の「成長実感」です。人は自分の成長を客観視するのが非常に苦手な生き物であり、頑張っていても「まだまだだ」と感じてしまいがちです。だからこそ、上司が言葉にして伝えてあげることが欠かせません。
「ラーメン屋さんの話」に学ぶ、影響力の確認という視点
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ここでひとつ、分かりやすい例え話を紹介します。
同じ待遇・同じ勤務内容の2人のラーメン屋店長がいる。A店長はひたすらラーメンを「作って出す」を繰り返すだけ。B店長も同じ作業をしているが、唯一の違いは、お客様やスタッフから「おいしかった」「早くて助かる」という声が本人に届いていること。
両者とも、実際には同じように周囲に良い影響を与えています。しかし、それを確認できているかどうかで、その後の行動が大きく変わります。声が届くB店長は、もっとおいしく、もっと早く作ろうと工夫を重ねる。一方、声が届かないA店長は、今日も同じ作業を繰り返すだけになってしまいます。
ポイントは「影響力を与えているかどうか」ではなく、「影響力を与えていることを本人が確認できているかどうか」だという点です。これは心理学の「自己決定理論」(ロチェスター大学のデシ&ライアン)とも符合します。この理論では、モチベーションを支える要素として、
- 有能性(自分はできると実感できる)
- 関係性(仲間に支えられている、認められている)
- 自律性(誰かに強制されているのではなく、自分で決めている感覚)
の3つが挙げられますが、このうち有能性と関係性は、フィードバックを通じてしか本人が確認できないという共通点があります。
つまり、いくら実力があっても、それを言葉で伝えてもらえなければ、本人は自分の価値に気づけないのです。
データが示す、エンゲージメントのインパクト
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ギャラップ社が270万人規模で行った調査によれば、エンゲージメントが高い従業員と低い従業員とでは、次のような差が生まれるとされています。
- 成功率:2倍の差
- 収益性:23%の差
- 生産性:18%の差
- 離職率・安全事故・欠勤にも大きな差
離職に悩む組織の多くは「給料が原因」「本人の問題」と片付けがちですが、実際にはエンゲージメントの低さが根本原因であるケースが少なくありません。
実践のヒント:現場でよくある3つの疑問
① 上司からの称賛が「おだて」に感じられてしまう理由
上司からの称賛は、成績が自分の評価にも直結するため、部下から「利害関係があるのでは」と受け取られやすい側面があります。一方、同僚など利害関係の薄い相手からの称賛は、より素直に届きやすいという「第三者話法」の効果が知られています。上司の立場では、結果が出た瞬間だけでなく、過程の途中でも継続的に声をかけ続けることが、この壁を越える鍵になります。
② マネジメントも「センス」ではなく「練習」で磨かれる
営業などで成果を出してきた人ほど、自己流のマネジメントに頼りがちで、これは「ダニング=クルーガー効果」(能力の低い領域ほど自分を過大評価してしまう心理傾向)が関係していると考えられます。マネジメントは自転車の乗り方と同じで、感覚ではなく反復練習でしか身につきません。根拠のある型を、ロールプレイなどで繰り返し体に染み込ませることが重要です。
③ 自分自身のエンゲージメントは、自分では上げにくい
「他者から認められること」がエンゲージメントの核である以上、実は自分ひとりでエンゲージメントを高めるのは簡単ではありません。代替手段として有効なのが、自分の成長を「見える化」して客観視することです。心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感」(自分には困難を乗り越える力があるという感覚)は、小さな成功体験の積み重ねによって高まるとされています。周囲からのフィードバックが得にくい環境にいる場合は、自分の変化を記録し、定期的に振り返る仕組みを持つことが助けになります。
まとめ
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エンゲージメントとは精神論ではなく、再現性のある「型」として設計できるものです。
- エンゲージメントは「情緒」「行動」「認知」の3要素で構成される
- その70%を左右するのはリーダーの関わり方
- 鍵となるのは「期待」「承認」「尊重」「成長実感」「貢献実感」の5点
- 人は、自分の影響力を確認できて初めて、もっと頑張ろうと思える
- マネジメントスキルもまた、センスではなく練習によって培われる
「良い上司だから」「相性が良いから」で片付けてきたことの多くは、実は言語化・再現可能なスキルです。次回もまた、組織づくりに役立つ知見をお届けします。
【執筆者】株式会社HYBRID THEORY 代表取締役 丸山裕之 氏
栃木県で公務員を経験し独立。ハーバード大学やスタンフォード大学などの論文や研究データ、脳科学・心理学の文献などを年間700冊読み込む。科学的に効果が実証された方法で社内研修や、組織構築を提供する株式会社HYBRID THEORYを設立。また、脳科学に基づいた学習方法を用いた学習塾を運営している。能力や才能に関わらず、誰でも結果の上がる「科学的に正しい方法」を伝えて、個人の人生の満足や会社の利益向上を目指している。
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