建設ICTで、職人の技術継承はどこまで進むか
ドローン測量や3次元設計データの活用が広がり、施工の手順は以前より共有しやすくなりました。ただ、ベテランがその場で下している判断まで、同じように記録から読み取れるわけではありません。
ICTが受け渡せる技術の範囲
データで残る手順と基準値
建設ICTが技術継承に対して担っているのは、作業の手順と基準値を形に残す部分です。測量から施工、出来形の確認までを3次元データで扱えば、どこをどの高さに仕上げるかという指示を、経験の差に関わらず同じ内容で共有できます。以前は熟練した操作者の感覚に頼っていた掘削や整地も、設計データに沿って進められるようになりました。手順として書ける技術は、ICTによって引き継ぎやすくなったと言えます。
技術は手順と判断に分かれます
一方で、職人の技術は手順だけでできているわけではありません。同じ設計データを前にしても、地盤の状態や天候、後工程との兼ね合いを見て、どこまで機械に任せ、どこで人の手を入れるかを選ぶ場面が残ります。手順として書き出せる部分と、状況に応じて選び方が変わる判断の部分。継承を考えるときの出発点は、この二つを分けて捉えることです。前者はICTで引き継ぎやすくなりましたが、後者は別の課題として残っているのです。
継承が滞りやすいのは判断の部分
記録に残るのは、何をしたかまで
施工履歴や検査記録には、いつ、どこを、どの数値で仕上げたかが残ります。ただ、なぜその数値にしたのかという前提までは残りません。前日の雨で土の含水が高かったこと、隣の工程が遅れていて手順を入れ替えたこと。そうした条件の読み方には、記録の欄に書く場所がないままです。出来形の数値は残っても、その日の段取りをどう組み替えたかは、担当者の頭の中にとどまります。
判断は状況とあわせて伝わります
判断の理由は、単独のルールとして取り出しても、次の現場では使いにくいものです。若手が知るのは、結果として選ばれた数値だけ。条件の違う現場でそれをそのまま当てはめれば、仕上がりにずれが出ます。どんな条件のときにその選び方が正しいのか、どこからが例外なのか。状況と組み合わせて示さなければ、若手は自分の担当する現場に当てはめられません。だからこそ、記録を渡すだけでは判断まで引き継げないのです。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
判断を伝える機会は現場任せ
教える機会は、その場面次第
判断を伝えられるのは、その状況が実際に現場で起きたときです。ベテランは自分の工程を抱えており、若手に付いて回れる時間は限られます。教える機会は、現場でその条件に出会えるかどうかに左右されるのです。同じ工種でも、2年続けて同じ条件に当たることはめずらしいものです。
記録を教材に直す工程がありません
施工データや検査記録は、日々たまっていきます。それを、どんな状況で何を選んだかという形に組み直す担当も時間も、通常の業務には組み込まれていません。結果として、質問の宛先は特定のベテランに集中したままなのです。その人が別の現場に移れば、判断の理由をたどれる相手がいなくなります。
作る側から、確かめる側へ
整理と初稿はAIが引き受けます
資料の整理、構成の組み立て、初稿づくりといった準備の作業をAIが引き受けると、現場を知るベテランが教材を一から書き起こす必要はなくなります。空いた時間は、内容が実際の施工条件に合っているかの確認や、例外の線引きの提示に充てられるようになるのです。変わるのは労力のかけどころで、専門的な責任がなくなるわけではありません。
向き合うのは白紙ではなく下書き
最初に向き合うのが白紙ではなく、資料から組み立てた下書きであれば、書き足す先は、なぜその数値にしたのか、どの条件で選び方が変わるのかという部分に絞られます。関与の形は、一から書く作業から、抜けや誤りを指摘する作業へと変わるのです。まとまった時間を確保しにくい立場でも、この形なら手をつけやすくなります。ただし、確認そのものの手間は残ります。
日々の施工記録から学ぶ流れへ
終わった工事が学習の材料になります
一つの工事が終わった時点で、その記録が学習の材料になります。若手は、実際にあった条件を見ながら、自分ならどこで人の手を入れるかを考えて答え、そのあとでベテランの選び方と見比べます。現場でその場面を待たずに、判断を考える回数を増やせるようになるのです。同じ記録は、後から加わった担当者も同じ条件で読み直せます。
言葉として残る、判断の前提
これまで口頭で消えていた判断の前提が、条件つきの説明として残ります。新しく入った担当者にも、どの条件で判断が変わるのかを、同じ説明で伝えられるようになるのです。同じ質問を何度も受ける負担も、宛先が一人に偏る状態も、少しずつ和らげられます。もちろん、現場での確認や声かけがなくなるわけではありません。
重要なポイント
建設現場のICT化は、手順と基準値の共有を確かに前へ進めました。それでも継承の中心に残るのは、その数値をどんな条件で選び、どこで変えるかという判断の部分です。手順の共有と判断の継承は、別の工程として扱う必要があると言えます。記録が増えるほど、判断の前提を言葉にする工程があるかどうかが効いてきます。
進め方を見直すときの手がかりの一つは、記録を学習の材料に組み直す工程が業務の中に置かれているかという点です。ベテランが一から教材を作る前提のままでは、伝えられる範囲は限られたままなのです。誰が内容を確かめるかまで決めておけば、記録の量が増えても、この進め方は続けやすくなります。