認知負荷のデザインで最初に分けるのは、覚える情報です
研修の資料が多いという指摘を受けて、認知負荷のデザインに取りかかる社内講師がいます。最初に向かうのは、説明を短くし、スライドの枚数を減らす方向です。分量を落とせば受講者の負担も下がる、という見立てです。ところが、業務でそのまま使う内容が資料の大半を占めていて、減らせる範囲は思ったほど広くないのです。受講者が途中で追いつかなくなる場面を見直すと、手がかりは量そのものよりも、情報の置き方の側に残っています。
減らせない情報をどう扱うか
量の調整では行き詰まります
認知負荷のデザインは、情報の総量を調整する作業だと受け取られがちです。しかし、企業の研修で扱う内容は、制度の条件、手順の例外、判断のよりどころといった、業務でそのまま必要になるものが大半を占めます。申請の受付条件から例外をひとつ落とせば、受講者は現場でその例外に出会ったときに手が止まります。認知負荷のデザインを量の調整として組み立てると、早い段階で行き詰まるのです。
覚える側と調べる側の切り分け
受講者が話についていけなくなるのは、情報が多いからだとは限りません。渡されたものを全部その場で覚えるつもりで受けているために、どこに力を入れればよいのかを決められないまま進む、という状態が起きます。量を減らしても、この受け方が変わらなければ、ついていけなくなる場面は残ります。そこで決めるのが、その場で思い出せないと困る情報と、調べ方だけ渡しておけばよい情報の切り分けです。この区別を教材の側で示しておくことが、認知負荷のデザインの中心にあります。
どちらに置くかを決める材料
使う場面から見分けます
どちらに置くかは、教材の中身を眺めていても決まりません。見分ける材料は、その情報を使う業務の場面の側にあります。同じ一文でも、それを使う場面が変われば置き場所も変わります。お客様の前で聞かれて、その場で答えられないと話が止まる情報は、覚える側です。手元の端末や共有フォルダを開けば確かめられる情報は、調べ方を渡す側で十分です。
業務を知る人にしかできない判断
この見分けがつくのは、実際にその業務を動かしている人です。設計から講義まで自分で担当し、本業と兼任している社内講師は、どの情報がどの場面で必要になるかを知っています。業務から離れた立場で同じ資料を読んでも、どちらに当たるかまでは決められません。見分けの材料は、日々の業務を通じて少しずつたまっていきます。社内で教材を作ることの強みは、この判断にあると言えます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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切り分けを教材に反映し続けられない事情
同じ体裁で並ぶ業務資料
業務資料では、覚えてほしい判断のよりどころも、めったに使わない手順の細部も、同じ見出しと同じ分量で並んでいます。見出しの大きさからは、どちらの扱いなのかを読み取れません。切り分けを決めても、教材の形にするには全体を組み替えることになります。通常の業務と兼任している中では、着手しにくい作業です。
配分が合っていたか分かりません
最初に決めた配分が実務と合っているとは限りません。ところが研修が終わって手元に残るのは、受講者が修了したかどうかまでです。受講後のアンケートで分かるのも、進め方への印象までにとどまります。どの情報で手が止まったのかが分からないため、配分を見直す手がかりがないのです。
一度きりの作り直しから、直せる教材へ
教材の形にするまでの手数
AIを使って変わるのは、切り分けの判断そのものではありません。変わるのは、決めた内容を教材の形にするまでの手数です。手元の業務資料をもとに、扱いの違いを反映した下地を用意しやすくなります。どの情報を覚える側に置くかを決めるのは、これまでどおり講師の仕事です。業務のどの場面で必要になるかを知らなければ、置き場所を決められません。
講師の時間の使い道が変わります
組み替えが一度きりの大仕事でなくなると、配分の見直しを後から重ねられます。最初の切り分けが実務と合っていなかったときに、資料を並べ直すところから始めなくてすみます。体裁を整える時間より、どちらに置くかを決める時間に回しやすくなるのです。ただし、判断と確認の手間まで消えるわけではありません。
全部を覚える前提から、絞って覚える受け方へ
覚える範囲に力を入れられます
教材の中で扱いが分かれていると、受講者は全部をその場で覚えるつもりで受ける必要がなくなります。力を入れるのは、覚える側に置かれた情報です。残りは、必要になったときに調べ方をたどれば足ります。研修の時間の使い方が、そこから変わってくるのです。
次の切り分けを考える材料
講師の側にも、次の切り分けを考える材料が残ります。研修中のやり取りから、どの情報で手が止まったのかを後から確かめられます。修了したかどうかだけを見ていたときには気づけなかった配分のずれを、次の開催で入れ替えられるのです。配分の見直しが、講師の記憶だけに頼る作業ではなくなっていきます。
重要なポイント
認知負荷のデザインは、情報を削る作業ではありません。業務で必要な情報は減らせないという前提に立ったうえで、その場で思い出せないと困る情報と、調べ方を渡しておけばよい情報を分ける作業です。分けた結果を教材の側で示しておくことが、受講者の受け方そのものを変えていきます。削る判断は、そのあとで足ります。
迷ったときの手がかりは、その情報が必要になる場面で、手元で調べられるかどうかです。調べられるなら、調べ方を渡す側に置けます。その場で答えられないと話が止まるなら、覚える側に残します。この見分けができるのは、業務の進み方を知っている人です。教材を作る人が業務の側にいることが、ここで生きてきます。