【交流会レポート】AI時代の管理職育成「何を変えるべきか」「何を変えてはいけないか」

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2026年9月10日、当社は「人材開発オフライン交流会」を開催し、元ニトリHD人事責任者の永島 寛之氏をお迎えしました。当日は20名の参加者が集まり、部長クラスからメンバーレベルまで、業種もさまざまな顔ぶれとなりました。

永島氏のファシリテーションのもと、講演とグループディスカッションを交互に配置した構成で進行し、UMUは「AI時代の管理職育成とアセスメントのあり方」というテーマについて語りました。本コラムでは、永島氏の講演内容を中心に、その要点をお伝えします。

 

 

自らの経歴から見えてきた、二つの問い

永島氏は2013年よりメーカーでマーケティング職を務めたのち人事へ転身し、人事責任者やスタートアップ「レノバ」のCHROを歴任、3年前に独立して現在は10社以上の顧問として活動されています。多様な組織課題に向き合ってきたその経験から、AI時代においては人事の「当たり前」を一度疑ってみる必要があると永島氏は語ります。

そこで本日の中心テーマとして提示されたのが、「①何を変えるべきか」「②何を変えてはいけないか」という二つの問いでした。参加者はこの問いを起点に、自社の管理職マネジメントの現状を共有し合いながら講演を聞きました。

AI時代における能力の再定義:認知能力と非認知能力

永島氏はまず、人材の能力を「認知能力」と「非認知能力」の二つに分けて捉え直しました。

 

認知能力とは、覚える・計算する・分析するといった、主に学校教育で重視されてきたスキルです。この領域はAIの得意分野と大きく重なっており、従来の学歴採用は認知能力の高い人材を求める傾向にあったと指摘されました。

 

一方の非認知能力は、好奇心・主体性・共感といった、テストの点数では測りにくい人間的な資質です。教育課程では認知能力が優先されるあまり、非認知能力は封じられがちだったといいます。しかしAIによる代替が難しいからこそ、今後のマネジメントではその重要性が増していく、というのが永島氏の仮説です。なお、こうした資質は現在ではエンゲージメントサーベイやAI技術を用いたサーベイによって、測定可能になりつつあるとも述べられました。

管理職の役割変革:AIが代替する業務、人にしか担えない業務

続いて、AIの進化が管理職の業務に与える影響が具体的に語られました。

 

従来、管理職の主な業務は「目標設定」「管理・測定」「仕組み化(再現性の向上)」であり、本来はここに「動機付け」や「人材育成」が加わるべきだと永島氏は言います。しかし産業能率大学の調査によれば、管理職のほぼ100%がプレイング業務を兼務しており、過半数がマネジメント業務に支障を感じているのが実情です。

 

AI時代には、「管理」や「仕組み化」といった定型的な業務は急速にAIへ代替されていきます。だからこそ、これまで多忙を理由に後回しにされてきた「動機付け」「人材育成」「対話」といった、より人間的な業務こそが、管理職の主要な役割として残るという見立てが示されました。

 

もちろん目標設定はマネジメントの基本であり、ゴールを定めずにAIを活用しても組織は迷走するため、人間による議論の重要性は変わりません。しかし、管理業務だけに終始するマネージャーは、その存在価値を問われる時代になるとも語られました。

組織のフラット化と、失われる「育成の機会」

AI導入は、組織構造そのものにも変化をもたらします。米国のGoogleやAmazonといった先進企業では、AIによる業務最適化を背景に組織のフラット化(中間管理職の削減)が進んでいます。中間管理職の半数以上を削減した企業が20%存在すること、営業部門では中間管理職の割合が30%に達するケースがあることなど、具体的な事例も紹介されました。ただし、日本の年功序列的な組織構造とは前提が異なるため、そのまま当てはめることはできないとも補足がありました。

 

より深刻な課題として挙げられたのが、これまで新人が担ってきた業務がAIエージェントに置き換わることで、若手が実務経験を通じて「意思決定能力」を身につける機会そのものが失われつつあるという点です。意思決定能力は研修だけでは習得できず、実務経験を通じてしか磨かれません。この状況を踏まえ、管理職の新たな役割は、部下が育ち続けるための「場」を意図的に作り出すことにあると永島氏は結論づけました。

変えるべきこと、変えてはいけないこと

前半のまとめとして、二つの問いへの仮説が示されました。

 

変えるべきは、「上司は部下を能力で上回るべき」という、自ら進んで行動し手本を見せることを前提とした旧来のマネジメント観です。

一方で変えてはいけないのは、「動機付け」と「対話」を通じて、部下が安心して試行錯誤できる心理的安全性の高い場を上司が作ることだといいます。AIによって管理業務が効率化される分、これまで「忙しい」を理由に後回しにされてきた人材育成や対話こそが、これからのマネジメントで最も重要になる──永島氏はこの点を改めて強調しました。

 

この仮説をもとに、参加者は「業務達成・管理」「育成」「仕組み化」の業務バランスや、自社で最も手が回っていない領域はどこかについてディスカッションを行いました。

人的資本経営の限界と、非認知能力を解放する視点

グループディスカッションを挟んだ後半では、視点をさらに広げ、人的資本経営そのものへの問いかけが展開されました。

 

永島氏はまず、人的資本経営が人材開発を経営者のアジェンダとして明確に位置づけた点に、歴史的な意義があったと評価します。それ以前は教育担当者や面倒見の良い管理職の裁量に委ねられていたものを、経営者が投資判断を下す領域として確立させたこと、また「人的資本」という概念が、人が内側に持つ経験やスキルを指すものとして整理され、配置転換や動機付け、目標設定といった「発揮の場づくり」まで射程に収めたことは重要な前進だったといいます。

 

しかし、その実践は次第に変質しました。国全体で推進が進む中で、「女性管理職比率の目標値設定」や「研修受講率のKPI化」など、数値で説明・設定・金銭換算しやすい施策ばかりが積み上がり、本来目指すべきだった個社ごとの独自性や、人の内的な力の発揮という本質が後退してしまった──永島氏はこれを「扱いやすい部分だけが取り出された」結果だと表現します。根本には、数値で測れる「合理的な判断」や「認知」への偏重があり、非合理な判断、非認知能力、非金銭報酬(トータルリワード)を扱わない限り、本来の人的資本経営は成立しないというのが現時点での総括です。

意思決定の4段階と、AIに代替されない両端の力

意思決定のプロセスは、古くから「観察→分析→判断→決定実行」という4段階で構造化されてきました。永島氏はニトリの事例を紹介し、全社員が毎週このフレームで上司へレポートを提出するルールがあり、現場の兆しを捉える「観察」から始まる思考習慣が組織に根付いていたと説明します。

 

日本企業は歴史的に、優秀な社員ほど「分析」と「判断」の業務に配置してきました。しかしこの2領域こそAIが最も得意とする領域であり、構造化・選択肢の提示・根拠に基づく選択はすでにAIで代替可能になりつつあります。AIは世の中を「平均化」する性質を持つため、分析・判断のコストは急速に下がり、平均的な処理は誰でも実行できる時代が来ると永島氏は指摘します。

 

だからこそ人間が付加価値を発揮すべきは、4段階プロセスの両端、すなわち「観察」と「決定実行」です。他者が気づかない現場の兆しを読み取る力、データになっていない変化を感知する力、根拠が不十分でも思い切って実行する力、人を巻き込んで合意形成をつくる力──これらはいずれも非認知能力(Non-cognitive Skills)の領域であり、計算や分析といった認知能力(Cognitive Skills)とは性質が異なります。

 

重要なのは、どちらか一方が優れていればよいのではなく、好奇心ややりたいという意志(非認知能力)が、必要な知識やスキル(認知能力)を呼び込むという相互補完の関係にある点だと永島氏は語ります。海外駐在で一気に英語力が向上するのはその典型で、必要性への実感が学習行動を引き出す構造は、「学習俊敏性」とも重なります。

 

日本企業の問題は、評価されやすい認知系の業務に優秀人材を集中配置してきた結果、非認知能力を発揮する人が「ちょっと変わった人」として正当に評価されてこなかったことにある──AI時代には、この構造をまさに逆転させる必要があると指摘されました。

 

こうした文脈で語られたのが「静かな退職」という現象です。指示された業務は最低限こなすが、指示外の研修や勉強はせず、本気のエネルギーは副業やスポーツ、MBA取得といった社外活動に投じる。マイナビの調査によれば、この層は正社員の約4割を占めるといいます。永島氏は、これを個人の怠惰ではなく、認知能力しか評価しない組織環境が生んだ必然的な結果だと位置づけました。

マネジメントの変革:管理から育成・動機付けへ

AIが数値管理や業績集計、仕組みの設計といった「管理業務」を着実に代替していく中で、マネージャーの役割は根本から再定義される必要があります。永島氏は、AIで代替できるものは素直にAIへ移行させる姿勢を前提としつつ、AIによる平均化は社会全体で進むため、対応しない企業は平均以下に沈むリスクがあると警鐘を鳴らします。

 

AIに管理業務を委ねた後、マネージャーに求められるのは、育成・目標設定の支援・仕事の意味付け・動機付けという、対話を中心とした非認知能力への働きかけです。米国の人材開発企業DDIの事例では、2026年のリーダーシップ項目に、従来の「部下を管理するためのリーダーシップ」に加え、新たに「パーソナルリーダーシップ(自分が自分をリードしていく力)」が追加されたといいます。リーダー像の定義自体が、他者管理から自律支援へと変化しているのです。

 

従来のリーダー像は「部下を能力で上回ることで動かす」モデルでしたが、これからは「対話によって仕事の意味を明確にし、成長を実感させ、良好な関係性の中で部下が自律的に動く環境を作る」モデルへの転換が求められます。永島氏は「売り上げに戦略があるのに、なぜリーダーの能力に戦略がないのか」という問いにも触れ、リーダー育成を経営戦略として位置づけることの重要性を強調しました。

熱意を生む「非金銭報酬」という視点

日本人の職場における熱意の低さは、たびたびメディアで報じられます。ギャラップの調査では世界平均の熱意保有率が23%であるのに対し、日本は5%という数値がよく引用されます。しかし永島氏は、この報道は本質を捉えていないと指摘します。ギャラップの調査(Q12)は熱意の有無を直接問うものではなく、「職場で何を期待されているかわかるか」「上司や同僚が自分を気にかけてくれているか」「成長を促してくれる人がいるか」「会社の使命が自分の仕事を意味あるものにしてくれているか」といった、環境の整備状況を問うものだからです。

 

つまりこの数値が示すのは「日本人は熱意がない」という事実ではなく、「日本企業は熱意を出せる環境を提供できていない」という現実だといいます。かつては同調圧力の中で社員が自動的に頑張るという構造が機能していましたが、働き方改革などを経て、頑張るか頑張らないかを個人が選択できる時代になりました。今や企業は、意図的に「熱意が出る組織」を設計・構築する必要があります

 

その解決策として永島氏が挙げたのが「非金銭報酬」です。給与は毎月受け取ってもすぐに感動が薄れ、ボーナスも翌月には慣れてしまいます。一方で「仕事の意味」「良好な関係性」「成長の実感」といった非金銭報酬は、毎日・不定期に・コストをかけずに提供でき、しかも上司から仕事の意味を伝えられた部下は、その意味を後輩や同僚へ語るようになるため、動機付けが組織内で連鎖・増殖していく効果があるといいます。

 

昭和型のマネジメントを受けてきた管理職にとって、仕事の意味を言語化し、関係性を積極的に構築し、成長を丁寧に見守るという非金銭報酬を渡すスキルの習得は、喫緊の課題です。永島氏は、これまで「おまけ」的に扱われがちだった1on1や経営者との対話会こそ、本来は非金銭報酬を渡す主要な場として中心に置くべきだと述べました。

挑戦を許容する風土づくり:桑田 真澄氏のエピソードから

非認知能力を解放する環境づくりの具体例として紹介されたのが、桑田 真澄氏の二軍監督時代のエピソードです。桑田氏は監督就任時、ピッチング以上に「盗塁」を重視しました。投打と異なり、盗塁は本人の意志が直接パフォーマンスを左右するからです。どれだけサインが出ていても、走るかどうかの最終判断は走者本人にあります。

 

就任前、チームの盗塁数は46でした。選手たちが走らない理由は明白で、チャレンジして失敗すれば怒られるが、走らなくても大きくは叱責されない──そういう環境では、挑戦は合理的に抑制されます。桑田氏は「失敗しても怒らない、一緒に考える」と約束し、挑戦できる環境を意図的に作りました。特別な走塁技術を教えたわけでも、足の速い選手を補強したわけでもないにもかかわらず、盗塁数は3倍に増加したといいます。

 

永島氏はこのエピソードを引きながら、多くの企業が嘆く「人材不足」は、実は「活躍できる場の不足」である可能性を真剣に考えるべきだと問いかけました。環境を変えるだけで、今いる人材のパフォーマンスは劇的に向上しうるのです。

まとめ:対話の可視化が、次の一手になる

講演の結びとして示されたのが、「対話の可視化とAIアセスメントの活用」です。上司と部下の対話の質や育成姿勢はこれまで評価が困難であり、「測れないものは育てられない」という負のサイクルが続いてきました。しかし現在は、AIアセスメントツールによってマネージャーの対話能力・部下への関わり方を客観的に可視化することが技術的に可能になっています。ギャラップQ12のような国際基準とも組み合わせながら評価制度に組み込むことで、管理職の役割変革と育成を制度的に後押しできる──認知能力から非認知能力へという転換を組織全体で実装するための「物差し」として、AIアセスメントの活用は今後の人的資本経営における重要な実践的手段になると永島氏は結びました。

 

永島氏の講演の後は、UMUパートでこれらの問いを実際の研修設計にどう落とし込むかが紹介され、参加者同士の2回目のグループディスカッションで自社実装への壁打ちが行われました。業界も役職層も幅広い参加者が集まったことで、それぞれの組織が抱える「管理職の忙しさ」と「育成の手薄さ」という共通の課題が、具体的な事例とともに浮かび上がる交流会となりました。

 

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