研修の行動変容の評価は、人事評価と混ざります
研修が終わったあと、行動変容の評価のために、多くの研修部門は現場の上長に様子を聞きます。自然な手順です。ただ、そこで返ってくるのは、行動の記述より人についての評価に寄った言葉なのです。
研修の行動変容の評価は何を見るか
業務のなかで使われたか
研修の行動変容の評価とは、研修で扱った内容が、その後の業務のなかで実際に使われたかどうかを確かめることです。受講後のアンケートやテストは、研修の場のなかで完結します。そこで確かめられるのは、内容を理解したかどうかまでです。値引きの相談を受けたときの応対、新しい手続きの問い合わせが来たときの受け答え。評価が対象にするのは、研修が終わったあとに起きる、そうした出来事の側です。
手がかりは現場にあります
その出来事は、研修の場では見えません。研修部門の手元に残るのは、開催の記録と受講後のアンケートまでです。年間の計画と予算を回している担当者が、受講者一人ひとりの業務に張り付いて見ていることもできません。そこで多くの研修部門は、現場の上長に様子を聞く形をとります。日々一緒に働いていて、変化があれば気づける位置にいるからです。自然な手順であり、ほかに聞ける相手も多くないと言えます。
評価する立場の人に聞くという形
査定の一部として届く問い
ここで一つ混ざるものがあります。聞く相手である上長は、すでに人事評価をする立場にもいるからです。その人から「研修のあと、変わりましたか」と聞かれれば、受講者はその問いを査定の一部として受け取ります。答える側が選ぶのは、自分の仕事ぶりがどう見られているかを意識した言葉になりがちです。研修で扱った内容の話をしているつもりでも、話題は自分の評価のほうへ近づいていきます。
返ってくるのは評価の言葉です
上長の側も、評価者としての言葉づかいから離れにくくなります。研修部門に返ってくるのは「よくやっています」「まだこれからですね」といった、人についての判断です。これは上長の姿勢の問題ではなく、立場が重なっていることから生じます。人についての判断からは、研修で扱った内容が使われたかどうかをたどれません。行動変容の評価が難しいのは、変化を見る人がいないからではありません。見ている人が、同時に別の評価も担っているからなのです。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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聞く手がかりが講座名だけの状態
場面で聞くために要るもの
研修部門にできるのは、評価の精度を上げることではありません。聞き方の側を組み替えることです。研修で扱った具体的な場面、たとえば解約の申し出を受けたときの応対について、そこで実際に何が起きたかを尋ねる形です。そのためには、扱った場面が研修の記録の側に具体的に書かれている必要があります。
講座名と日付だけが残ります
ところが残っているのは、講座名と開催日、それに受講者の一覧までということが少なくありません。場面を具体的に書き起こす作業は教材づくりの一部で、資料の読み込みと構成の整理に工数がかかります。年間の計画と予算を抱えたまま、そこまで手が回らないうちに開催日が来ます。
場面まで書き起こせる下準備へ
たたき台を用意するまでの時間
工数が下がるのは、すでに社内にある資料を教材の形にしていく手前の部分です。製品の説明資料、業務手順の文書、過去の問い合わせの記録。そこに書かれている出来事を拾い、どの場面を扱うのかを文章にしておく作業には、これまでまとまった時間を確保する必要がありました。ここが軽くなると、扱う場面を具体的に書いたまま研修の記録に残せるようになり、あとで現場に尋ねるときの言葉にもそのまま使えます。
どの場面を選ぶかは人が決めます
どの場面を教材に入れるかを決めるのは、現場と研修部門です。今の業務でよく起きるのはどれか、どこまでを研修で扱うか。その判断は引き続き人の手元に残ります。書き起こした内容が実際の業務と合っているかは、これまでと同じように現場と確かめ合うことになります。違ってくるのは、その話し合いを始める時点で、材料が手元にそろっているかどうかです。
聞く対象が、人から場面へ
その場面で何が起きたか
扱った場面が具体的に残っていれば、上長への聞き方も変わります。「変わりましたか」と人を主語にする代わりに、「先月、解約の申し出が来たときはどうでしたか」と出来事を尋ねます。人物についての言葉が入りにくくなり、返ってくるのは、その場で何を先に確かめ、どこまで伝えたかという出来事の記述です。
分かるのは、起きたことまで
ただし、そこで分かるのは、その場面で何が起きたかまでです。研修だけが理由だとは言えません。配属や担当の変わり目、その日の相手や状況が重なっています。原因を特定するための材料にはならないのです。それでも、人についての判断だけが戻ってくる状態からは離れられます。
重要なポイント
研修の行動変容の評価が難しい理由は、変化を見ている人の不足にあるのではありません。現場でいちばんよく見ているのは上長であり、その人は同時に人事評価も担っています。立場が重なっているために、返ってくる言葉は行動の記述より人についての判断に寄ります。難しさの出どころは、見る人の数ではなく、立場の重なりのほうにあると言えます。
研修のあとの聞き取りを組み立て直すとき、最初に見たいのは、何について尋ねているかです。人について尋ねていれば、返ってくるのは人についての判断です。研修で扱った場面について尋ねていれば、返ってくるのは出来事の記述に寄ります。どちらを聞いているかは、質問の文面を読み返せば分かります。