インストラクショナルデザインが扱う、効果的な学習の条件
インストラクショナルデザインをめぐる説明は、目標の立て方や工程の進め方が中心になりがちです。ただ、学習の途中で受講者が内容を自分で処理する場面があるかどうかも、効果的な学習を分ける要素の一つです。
めざす状態と、設計に含める範囲
めざすのは、引き出せる状態
インストラクショナルデザインでは、効果的な学習を、受講者が理解できたと感じた状態ではなく、学んだ内容を必要な場面で引き出せる状態として置きます。理解できた感覚は本人の内側にとどまり、外から確かめる手立てが残りません。引き出せるかどうかは、学習の中で説明してもらう、自分の判断とその理由を挙げてもらうといった形で確かめられます。めざす状態を先に決めておけば、どこまでの内容を扱うか、学習中に何をしてもらうかという判断にも、一本の基準ができるのです。
内容の並びだけでは足りません
効果的な学習をめざす場合、設計の対象は、扱う内容とその順序だけでは足りません。学習の途中で受講者に何をしてもらうか、そして、その答えから理解のずれに気づけるようにしておくか。ここまでを含めて決めるのが、インストラクショナルデザインの範囲です。教材を仕上げて配ることは、その一部にとどまります。
効果の差が表れるのは、アウトプットの場面
読む時間と、言い直す時間
資料を読み、講義を聞く時間は、内容を知る時間です。同じ内容について、自分の言葉で言い直したり、二つの進め方を比べて選んだりする時間は、内容を自分で処理する時間になります。かけた時間が同じでも、この二つでは、後から思い出せる度合いが変わります。新製品の販売研修で資料を一通り読んだ担当者が、顧客からの質問には答えられないという状態が起きる背景には、この違いがあるのです。
理解のずれは、答えた後に表に出ます
研修後のアンケートで高い評価が集まっても、受講者が必要な場面で内容を引き出せるかどうかまでは分かりません。評価から読み取れるのは、受講した時点での受け止め方までです。講師が次にどこを直せばよいかを決めるには、学習の中で受講者が何にどう答えたかという材料が要ります。理解のずれは、説明を聞いている間ではなく、答えを求められた場面で表に出てくると言えます。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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限られた時間と、そろわない前提知識
設計も講義も、一人で受け持ちます
企業内研修の現場では、コースの設計、教材づくり、講義、そして実施後のフォローまでを、一人の講師が兼任している例も多くあります。まず優先されるのは、当日の講義を滞りなく進めることです。手元の製品資料の見出しをたどる形で説明の順番を決め、アウトプットの場面は最後の理解度テストに寄っていきます。
そろわない、受講者の前提知識
配属直後の担当者と、経験を重ねた担当者では、必要な説明の量も、つまずく箇所も違います。層ごとにアウトプットの場面を作り分けるには、その本数だけ設計の時間がかかります。人手で用意し続ける前提では、どの層にも同じ一本を配る構成に戻っていくのです。
一方通行の説明から、応答のある学習へ
整理と下書きは、AIが引き受けます
言い直してもらう場面や、判断が求められる局面を、既存のマニュアルや製品資料から用意するには、素材の整理と下書きに相応の時間が必要です。ここをAIが引き受けると、講師が一から書き起こす負担は軽くなります。浮いた時間は、その局面が現場の実態に沿っているか、想定する受講者にとって負荷が高すぎないかを見極める作業に回せるのです。最終的に内容の妥当性を確かめ、公開を判断するのは、これまでと同じく講師です。
続けて用意できる形へ
一度に作り切る前提では、アウトプットの場面は初回の研修分で止まりがちです。整理と下書きの負担が下がると、学習ポイントの単位で用意し、制度や製品の変更に合わせて足していく進め方も取りやすくなります。どの場面を加えるかを決め、内容が実態と合っているかを確かめる作業は残ります。作業そのものが消えるわけではありません。それでも、続けられる範囲は広がると言えます。
設計の重心は、説明の順番から受講者の活動へ
決めるのは、どこで何をしてもらうか
下書きが手元にあると、講師の作業は、説明の順番を整えることから、学習ポイントごとにどこで何をしてもらうかを決めることへ移ります。この項目では自分の言葉で説明してもらい、次の項目では二つの進め方を比べて選んでもらいます。判断の単位が小さくなるほど、前提知識の違いに合わせた手直しもしやすくなるのです。
見えるのは、用意した範囲まで
学習の中で受講者の答えが残ると、講師は、理解のずれが集まりやすい学習ポイントを見つけやすくなります。次の改訂で手を入れる場所も、そこから決められます。ただし、そこで読み取れるのは、あらかじめ用意した活動と設問の範囲での学習の状況です。受講者が現場で同じ判断を選べるかどうかには、日々の業務の進め方や、上司からの後押しも関わってきます。
重要なポイント
効果的な学習は、教材の完成度だけで決まるものではありません。学習の途中で受講者が内容を自分で処理する場面があるかどうかも、結果を左右する要素の一つです。インストラクショナルデザインは、扱う内容と順序に加えて、その場面をどこに置くかまでを設計の対象に含める考え方です。
研修コースの組み立てを見直すときの手がかりは、二つあります。一つは、学習を終えた人が何を引き出せるようになるかを、外から確かめられる言葉で書けているかという点です。もう一つは、その確認の場面を、制度や製品の改訂に合わせて用意し直せるかどうかです。二つがそろっていれば、効果の確かめ方は無理なく続けられます。