属人化の解消は、書き残す工程だけでは進みません
特定の担当者しか対応できない業務を洗い出し、手順書に書き起こします。属人化の解消は、多くの職場でこの作業として語られます。ただ、書き残した内容を引き継ぐ側が使えるようになるまでには、もう一段の工程が残るのです。
どこまで進めば、属人化は解消と言えるか
進め方は、棚卸しから引き継ぎまで
属人化の解消とは、特定の担当者しか対応できない状態を、複数の担当者が同じ水準で対応できる状態へ移すことです。進め方として広く共有されているのは、三つの工程です。誰がどの業務を抱えているかを洗い出す、手順と判断の理由を言葉にする、別の担当者へ引き継ぐ。この順序は、業種や部門が変わっても大きくは変わりません。研修部門が関わるのは、多くの場合その後半です。手順書や業務マニュアルを研修コンテンツとして整え、対象者に配る役割を担います。
文書の完成は、途中の区切り
属人化が解消したかどうかは、文書ができた本数では判断できません。確かめたいのは、引き継いだ担当者が、同じ局面で同じ判断を再現できるかという点です。受発注の処理のように手順が決まっている業務であれば、文書を渡すだけで再現できます。一方、与信の判断や例外対応の多い業務では、同じようには進みません。文書の完成は、進め方の途中にある区切りだと言えます。
引き継ぎでつまずくのは、判断の再現
配った時点では、まだ引き継げません
手順書を研修コンテンツとして整え、対象者に受講してもらう。ここまでで完了として扱われがちです。ただ、配ることと、受け取った人が使えるようになることは別の事柄です。保守部門で新しい担当者に手順書を渡しても、判断に迷う案件は前任者へ回っていきます。研修部門の手元に残るのは、受講率と修了率まで。引き継いだ担当者が例外にあたる案件をどう扱えるかは、そこからは確かめられないのです。
求められるのは、判断してみる工程
判断を再現できるようになるには、説明を読む工程のほかに、自分で判断してみる工程が必要になります。条件を比べて選ぶ、その扱いにした理由を自分の言葉で説明する、時間を置いてもう一度確かめる。こうした工程を通ることで、読んで分かったつもりの状態から、必要な局面で引き出せる状態に近づきます。説明を丁寧に書き足す作業と、判断してみる工程を用意する作業は、別のものです。
業務シーンを1つ選ぶと、AIが顧客役を務めてあなたと1回の会話を行います。終了後、評価フィードバックを確認できます。
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判断してみる工程まで手が回らない事情
課題の形にできる人は限られます
判断してみる工程を用意するには、例外の扱いや線引きの理由を、課題の形にする作業が必要です。これができるのは、その業務を長く担当してきた一部のメンバーです。その人たちは日々の業務を抱えており、まとまった時間を割きにくい立場にあります。研修部門が素材を受け取っても、課題の形に書き起こす作業は手元に残ります。
部署の数だけ作り直しになります
属人化は、一つの業務にとどまりません。受発注、保守対応、与信の判断。部署ごとに対象を洗い出せば、判断してみる工程を用意する対象もその数だけ増えます。年間の研修計画に組み込める本数には限りがあり、優先度を下げた業務は着手前のまま積み残ります。
手元の文書から、学ぶ工程の下書きへ
整理と構成の組み立てが軽くなります
研修コンテンツにする前の作業には、習得目標の整理、押さえるべき知識の特定、構成の組み立て、初稿づくりがあります。この部分をAIが担うと、業務を知るメンバーが一から書き起こす前提ではなくなります。空いた時間の使いどころは、適用範囲の確認と、想定した局面が実務に合っているかという判断です。内容を確かめて公開を認める工程は、これまでどおり人の側に残ります。
その工程も、同じ素材から組めます
説明の文章だけでなく、条件を比べて選ぶ課題や、扱いの理由を言葉にする課題も、同じ手順書を素材に組み立てられます。時間が足りないとき、担当者がまず削っていた部分です。それでも、課題が実務に即しているかを確かめる作業は残り、その判断は引き続き業務を知る人が担います。
属人化の解消は、渡す作業から学ぶ工程へ
渡して終わりから、判断を挟む形へ
手順書を配って受講してもらう進め方から、判断してみる工程を間に挟む進め方へ。引き継ぐ担当者は、例外にあたる案件の扱いを自分で選び、その理由を言葉にしたうえで現場に入ります。前任者への確認がなくなるわけではありませんが、同じ問い合わせが戻る回数は抑えやすくなります。
報告に使える材料が変わります
研修部門が経営層に示せる材料も変わります。整えた文書の本数や受講率だけでなく、どの学習ポイントで理解のずれが起きているかを確かめられるようになるのです。ただし、そこから分かるのは、用意した課題と条件のもとでの学習の状況まで。現場で単独で判断できるかどうかは、業務の進め方や上司の関わり方にも左右されます。
重要なポイント
属人化の解消は、手順や判断の理由を書き残す工程だけで完結するものではありません。書き残した内容を引き継ぐ側が、同じ局面で同じ判断を再現できるようになること。そこまでを含めて、解消が進んだと言えます。文書の本数を増やしても、例外の問い合わせは同じ担当者に戻っていきます。
進め方を見直すときの手がかりは、判断してみる工程が引き継ぎの流れに入っているかという点です。もう一つは、その工程を改定のたびに用意し直せる範囲に収まっているかという点なのです。一度に整える本数を欲張らず、続けられる形にしておくほうが、対象を広げたときにも引き継ぎは進みやすくなります。