AI変革を牽引するのは誰か?企業経営層に求められる役割の変化と能力(IEEE最新論文)

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急速に変化するグローバルなビジネス環境において、人工知能(Artificial Intelligence, AI)は、企業の運営方法や価値創出、競争の構造をこれまでにない速度で変革しています。生成AIの台頭からデータ駆動型の意思決定の普及に至るまで、AIは企業のデジタル・トランスフォーメーションおよびビジネスモデル・イノベーション(Business Model Innovation, BMI)を推進するコアエンジンとなっています。

 

現在、従来の意思決定手法やリーダーシップモデルでは、AIがもたらす複雑性と不確実性に対応しきれなくなっています。このような状況の中で、企業の最高経営層に求められる役割は大きく変貌しています。企業に求められるのは、技術的なブレークスルー以上に、戦略面での再設計、組織文化の変革、資源配置の最適化といった対応であり、それらを担う経営層には、新たな責務が課され、新たなコンピテンシー(能力)が求められています。経営層は、戦略・行動・環境という3つの側面において重要な役割を担い、テクノロジーの複雑性と組織変革に対応する能力が不可欠になっています。

 

Philip Jorzik らの研究チームは、2023年にIEEEの学術誌『IEEE Transactions on Engineering Management』に「Artificial Intelligence-Enabled Business Model Innovation: Competencies and Roles of Top Management(AIによって可能となるビジネスモデル・イノベーション:企業経営陣の能力と役割)」という論文を発表しました。同論文では、AIおよびビジネスモデル・イノベーション分野の専門家47名へのデプスインタビューを通じて、企業経営者に求められる3つの主要な役割カテゴリーと5つのコンピテンシーを明確に構造化した新しい理論フレームワークを提示しています。

 

本記事では、この研究論文の核心的な知見を紹介しながら、AIによるビジネスモデル・イノベーション(AI-enabled BMI)における経営者の役割と求められる能力を深掘りし、企業にとって実践的なアクション指針を提供します。

1. 背景と研究手法

AIによるビジネスモデル・イノベーション(BMI)における経営層の役割と能力を深く理解するために、研究チームは帰納的アプローチ(Inductive Approach)を採用し、Gioia Methodに基づいたグラウンデッド・セオリー(Grounded Theory)を用いて理論の構築を試みました。これは、先行理論に依存せず、実践データから理論を導き出すことを目的とした質的研究手法です。

 

調査対象は以下の5つのカテゴリーから構成される47名の専門家です:

 

経営層(Cレベル役員およびマネージングディレクター):20名  

中間管理職および一般管理職(上級幹部直属のマネージャー層):16名  

AI専門家:6名  

学術教授(AIおよび戦略マネジメントの研究者):3名  

経営コンサルタント(AIトランスフォーメーションの経験を持つ):2名  

2. データ処理

収集されたインタビューの内容は逐語的に書き起こされ、Gioia Methodに基づいて階層的にコード化された上で、主要なテーマを抽出しました

 

階層1:一次概念(First-Order Concepts)  

インタビューから直接引用された表現に基づき、60の一次概念が抽出されました。これらの概念は、調査対象の専門家の言葉をそのまま反映したものであり、元のデータの信頼性を確保しています。例えば、ある専門家は「経営層はAIアルゴリズムの詳細を理解する必要はないが、それがビジネスにどのような影響を与えるかは理解しなければならない」と述べており、これは「AI技術への基本的理解」として分類されました。

 

階層2:二次テーマ(Second-Order Themes)  

一次概念の統合・比較を通じて、13の二次テーマを特定しました。これらのテーマは、研究者がデータをさらに抽象化・総括したものです。例えば、「AI技術への基本的理解」と「AI技術がもたらす管理上の課題」が統合され、「AI技術に関する知識と理解」としてまとめられています。

 

階層3:集約次元(Aggregate Dimensions)  

最終的に、それらの二次テーマは「経営者の能力(Competencies)」と「経営者の役割(Roles)」という2つの集約次元に整理され、理論的フレームワークが完成しました。

3. 主な結論

この研究の核心は、AIを活用したBMIにおける経営層の三大役割カテゴリーと、必要とされる5つのコンピテンシーを明確に定義した点にあります。

 

 

経営層の三大役割カテゴリー(インナー層)と5つの能力(アウター層)のモデル

 

経営層の役割は、戦略的役割(Strategic Roles)、行動的役割(Behavioral Roles)、環境的役割(Environmental Roles)の3つのカテゴリーに分類され、それぞれがAIによるイノベーション推進過程における重要な責任を担っています。

 

  1. 戦略的役割(Strategic Roles)
  •  持続的なAI戦略を策定する  

AI導入の方向性を明示し、AI技術が組織全体の長期戦略目標を支援できるようにする必要があります。これには、現行の業務プロセスの最適化、顧客体験の向上、新しいビジネスモデルの開発におけるAIの可能性を特定することが含まれます。例えば、「経営層の役割は方向性を示すことであり、AIプロジェクトが企業全体のビジョンや戦略と一致していることを確認することだ」との見解が挙げられています。

  •  AIユースケースの評価・優先順位付け  

顧客ニーズや戦略との整合性に基づいて、有望なAIプロジェクトへ適切にリソースを集中させる必要があります。そうすることで、企業はAIによる最大の利益を実現することができます。ある専門家は、「AIは技術そのものを追求するのではなく、顧客やビジネスモデルの真の価値を引き出すためにある」という姿勢が大事であると指摘しています。

 

  1. 行動的役割(Behavioral Roles)  
  •  AIビジョンの継続的な実現の推進

目標を明確にし、社内外の抵抗を克服するモチベーションを提供することが、経営層の責任です。ある専門家は、「経営者のコミットメントこそがAIプロジェクトを成功させる鍵である」と述べています。

 

  •  実験とイノベーションの自由の提供  

AI導入の成功には、試行錯誤と反復が不可欠であるため、失敗を恐れず挑戦できる組織風土を作ることが必要とされます。ある専門家は、「AIのような不確実性の高い分野では、イノベーションにおいて実験の自由を与えることが特に重要だ」と指摘しています。

 

  • 透明性と信頼性のあるコミュニケーションの確保  

AIへの不信感や誤解を払拭するために、ビジョンや目的を社内で明確に共有する工夫が求められます。例えば、ある専門家は「経営層は、AIのビジョンと目標を全員が理解し、受け入れられるようにする必要がある」と強調しています。

 

  1. 環境的役割(Environmental Roles)

■ 資源と知識のサポートを提供  

AIによるビジネスモデルの革新には、多様な知見を持つ人材や技術の獲得に加え、外部パートナーとの協業や、AIラボの設立などが求められます。

 

■ AI文化とチェンジマネジメントの推進  

単なる技術導入ではなく、変革を促す文化構築が必要です。ある専門家は「AIは単なるテクノロジーではなく、文化変容の触媒となる」と述べています。

 

AIによるビジネスモデル・イノベーションを実現するために経営層に求められる五大コンピテンシー  

経営層が上述の役割を果たすには、以下の5つの能力が不可欠です。

 

■ AIに関する知識と理解(Knowledge and Understanding of AI):AIの基本原理と、ビジネスにおけるその応用のポテンシャルを理解していること。

■ AIマインドセット(AI Mindset):新しいテクノロジーを試すことをいとわず、データ駆動型の洞察を受け入れられるオープンで柔軟な考え方を持っていること。  

■ AIリーダーシップ能力(AI Leadership Capabilities):チームがAI技術を受け入れるよう動機付け、企業内でAIのビジョン実現を推し進めることができること。

■ AIの抽象性をナビゲートする能力(Ability to Navigate AI Abstraction):技術的な可能性、組織構造の変革、データ駆動型の意思決定の価値など、さまざまな抽象レベルでAIの影響を理解できること。 

■ AIに基づく意思決定能力(Ability to Make AI-Based Decisions):AIが生成した洞察を信頼し採用すると同時に、AIの提案と人間の判断との間でバランスを見つけることができること。  

 

4. 中心となる論点のまとめ  

 

AIを導入するだけでは、企業の生産性や競争力は自動的には向上しません。企業は、AIを活用した変革の質が、テクノロジーそのものだけでなく、業務プロセスの再構築、AIによる効率化の鍵となるポイントの設計、そしてマネジメント手法の変革にも左右されるということを深く理解する必要があります。経営層はこのプロセスにおいて極めて重要な役割を担い、その能力とリーダーシップがAIによる変革の成否を直接左右します。

 

生産性と競争力の向上は、自然には起こらない

AI導入の効果を引き出すには、以下が鍵となります。

  • 業務プロセスの再構築

AIの価値は、既存のプロセスを単純に置き換えることではなく、業務プロセスを最適化し、再構築することにあります。企業は、AIにより何を最適化するかを見極め、AI技術と事業目標を密接に結びつける必要があります。

  • マネジメント手法の変革

AIによる変革は、意思決定プロセスの再構築、データ駆動型文化の醸成、そして部門間の連携強化といった、マネジメント手法の抜本的な調整を必要とします。

  • 「AIリテラシー」の強化

AIリテラシー(AI Literacy)とは、AI技術を理解し、応用し、管理する能力を指します。これは技術チームだけでなく、企業の全従業員、特に経営幹部層にも当てはまります。企業のメンバーがAIリテラシーを身につけて初めて、AIのポテンシャルは最大限に引き出されます。

 

経営層の役割と能力の変革こそが、AIトランスフォーメーションの核心である

 

経営層は、企業の事業リーダーとして、また卓越した経営の推進者として、AIトランスフォーメーションにおいて、自らの役割と能力を変革させることが特に重要です。ただし、論文が指摘するように、経営層は技術の専門家になる必要はなく、以下の点において変革を遂げる必要があります。

 

  • 戦略的視点への転換

戦略的なレベルでAIのポテンシャルを理解し、それを企業の長期的な発展目標に組み込む必要があります。

  • リーダーシップの向上

AIのエバンジェリスト(伝道師)となり、明確なビジョンと透明性のあるコミュニケーションを通じて、チームがAI技術を受け入れるよう動機付け、文化変革を推し進める必要があります。

  • 外部視点の導入

「アウトサイド・イン」アプローチで学習し、業界の最新トレンドやベストプラクティスを積極的に学び、変革を推進するために最適なツールを応用する必要があります。

 

UMU:企業のAIトランスフォーメーションを支える戦略的パートナー  

 

こうしたAI変革を成功裏に進めるためには、戦略的なパートナーとの協業が不可欠です。UMUは、先進的なAIツールとプラットフォームを提供し、従業員の生産性、創造性、そして業務体験の向上を支援します。

 

  • 業界インサイトとベストプラクティス

業種別のAI導入事例に基づき、個別課題に応じたソリューションを提供します。

  • 組織能力の強化

『大規模言語モデル時代の「AIリテラシー」養成講座』やワークショップを通じて、企業各層が迅速にAIマインドセットを確立し、効率的にAIを活用できるよう支援し、企業全体のAIによる変革を推進します。

  • ツールと技術サポート

創造性・生産性・業務体験を向上させるための先進的なAIツールとプラットフォームを提供します。

 

UMUへのお問い合わせで、AIによる企業能力向上に関するホワイトペーパーやAI導入の実践知見をお受け取りいただけます。

5. アクション提言  

AI導入によるBMIを成功させるために、経営層は以下の行動を取る必要があります。

 

業務プロセスの再設計  

  • AIによる効率化が期待される業務プロセスを特定し、優先的に改善対象とする。
  • データ駆動型の意思決定文化を醸成する。AI技術が企業に実用的なデータに基づく洞察を提供できるようにし、それを日々の意思決定に組み込む。

 

企業の「AIリテラシー」の育成  

  • 経営層は業界のベストプラクティス研究やコンサルティング、研修ワークショップを通じて、AIの理解と戦略的応用能力を向上させる。  
  • 全社員がAIの知識とスキルを習得し、日々の業務の中で適切にAIを活用できるようにする。

 

「アウトサイド・イン」の学習モデルを採用する  

  • 業界トレンドや技術の進展を継続的にキャッチアップし、業界の成功事例や失敗から得られる教訓を理解する。 
  • ベストプラクティスを参考にし、AIの戦略的パートナーと連携し、自社に最適なAIソリューションとマネジメント手法を取り入れる。 

AIを活用した未来へ向けて  

AIを活用したビジネスモデル・イノベーションは、単なる技術革命ではなく、組織設計・マネジメント手法・リーダーシップの全面的な革新を意味します。企業の中心的リーダーである経営層は、積極的に変化を受け入れ、業務プロセスの再設計、企業のAIリテラシー育成、そして外部の学習モデルの採用を通じて、企業が真の変革を遂げるよう推進しなければなりません。

UMUは、AIによる変革の戦略的パートナーとして、いつでも企業を支援する準備ができています。業界インサイトから実用ツール、高度人材育成まで、企業がAI時代において競争力を維持できるよう、全力で支援することをお約束します。

 

UMUのALTチームは、北京大学、清華大学、中国人民大学、コーネル大学、フロリダ大学といった世界的に著名な大学で博士号を取得したメンバーによって構成されており、AIと組織マネジメント、人事といった領域の学際的研究を専門としています。

 

私たちは、関連する学術論文を体系的に整理し、その研究手法や核心的な洞察を抽出して、実務で応用可能な実用的知見として企業に提供しています。「AI論文紹介シリーズ」もぜひご覧ください。

 

また、学術的な成果、業界のリーダーからの提言、そしてベストプラクティスのケーススタディ・インタビューを組み合わせた『大規模言語モデル時代の「AIリテラシー」養成講座』オンラインコースシリーズも開講中です。

 

各講座の詳細は、UMUの AIリテラシーコースページをご確認いただくか、UMUカスタマーサポートよりお気軽にご連絡ください。

 

参考文献:

Jorzik, P., Yigit, A., Kanbach, D. K., Kraus, S., & Dabic, M. (2023). Artificial intelligence-enabled business model innovation: Competencies and roles of top management. IEEE Transactions on Engineering Management, 71, 7044–7056. https://doi.org/10.1109/TEM.2023.3275643

 


私達UMUは、企業様向けに研修のオンライン化やリモート学習の無料相談会を毎日実施しております。
また、常に最先端のテクノロジーと学習情報をアップデートしておりますので、お困りごとや、追加で必要な情報のご要望などございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。

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