社内SNSの鍵は「信頼」×「親近感」。AIとの協働で叶える自分らしい発信の新常識とは?(学術論文レビュー)
メールや議事録といった従来のコミュニケーション手段に加え、近年では社内SNSを活用し、従業員間の交流や情報共有を活性化させる企業が増えています。こうしたプラットフォームの特徴は、「セミフォーマル(半公式)」であるという点です。プライベートなSNSほど砕けてはおらず、かといって公的な文書ほど堅苦しくもない、この絶妙なバランスが求められます。従業員は「プロフェッショナルとしての信頼感」を保ちつつ、「親しみやすさや個性」も表現したいと考えます。しかし、その実現は容易ではありません。カジュアルすぎればプロとしての評価に影響し、堅苦しすぎれば同僚との心理的な距離を生む要因となります。
文章作成にAIを活用するケースも増えていますが、そこにはいくつかの課題が存在します。
- シーンによる使い分けの難しさ:業務連絡のような「フォーマル」な投稿と、チームの活気を伝える「カジュアル」な投稿。これらを同一プラットフォーム上で、TPOに合わせて書き分ける必要があります。
- AI特有の「画一化」:大規模言語モデル(LLM)は素早く文章を生成できますが、その内容は画一的で、ユーザー独自の口調や背景にある文脈が反映されにくい傾向があります。
- プロンプトのハードル:ユーザーがAIに意図や背景を正確に伝えることは難しく、結果として期待外れな文章が生成されてしまうことがあります。
AIがいかにして「ビジネスの文脈」を理解し、「その人らしい個性」を反映した投稿を作成できるかが、重要な技術的課題となります。本記事では、この課題解決に挑んだ最新の研究『Corporate Communication Companion (CCC):社内SNSのためのLLM駆動型ライティング・アシスタント(Lu, et al., 2024)』を紹介します。この研究で提案された対話型AIシステム「CCC(企業コミュニケーション・アシスタント)」の仕組みと発見について、詳しく見ていきましょう。
本研究が焦点を当てたのは、「効率的かつ柔軟にカスタマイズ可能なAI執筆アシスタントを、いかに設計するか」という課題です。社内SNSでの情報発信において、ユーザーが「プロとしての信頼感」と「その人らしい個性」を両立できるよう支援するには、どうすればよいのでしょうか。以下、本研究から得られた核心的な知見を詳しく紐解いていきます。
1. 事前調査とヒアリング:社内SNSにおける「投稿」の実態とニーズ
代表的な利用シーン
研究チームは、大企業の社内データを基に、従業員が実際にどのような投稿を行っているかを調査しました。ランダムに抽出した2000件のメッセージをGPT-4を用いて分析しました。
- トピックの分類(クラスタリング):まず、大規模言語モデル(LLM)を用いて各メッセージの要約を作成します。その要約に基づき、「業務連絡」「プロジェクトの進捗」「技術ナレッジの共有」「社内イベントの案内」など、頻出する10種類のカテゴリーを生成・分類します。
- 文体の分析(スタイルのタグ付け):各メッセージの言語的な特徴を解析し、その投稿がどのようなスタイル(フォーマル、カジュアル、スラングの使用など)で書かれているかを判定してタグ付けを行います。
研究の結果、同じトピックであっても、そこで使われるスタイルは非常に多様であることが明らかになりました。
例えば「業務連絡」というカテゴリーでは、52.85%は「フォーマル」なトーンですが、26.64%は「カジュアル」な表現が使われ、さらに6.34%は「スラング」を交えて発信されています。
この事実は、投稿スタイルが単なる「個人の好み」だけで決まるものではないことを示しています。誰に向けて書くか、どのような状況か、そして「プロとして自分をどう見せるか」という戦略が密接に関わっているのです。
したがって、AI執筆アシスタントの設計においては、こうした「文体の多様性」と「ユーザーの戦略的な意図」を十分に考慮する必要があります。
ユーザーニーズの掘り下げ(インタビュー調査)
AIによるライティングアシスタント機能に対し、ユーザーが具体的に何を求めているかを探るため、研究チームは7名のアクティブユーザーを対象に、対話形式の調査(半構造化インタビュー)を実施しました。調査対象は25歳から55歳までと幅広く、その職種も技術責任者、プロダクトマネージャー、インターンなど多岐にわたります。
インタビューでは、主に以下の3つのポイントに焦点を当てました。
- 投稿作成のプロセスと習慣:ユーザーが投稿を構想し、執筆し、修正するまでの一連の流れを調査しました。これは認知心理学における「Flower & Hayesのライティングモデル」である、「計画(構想)」、「言語化(執筆)」、そして「推敲(見直し)」という3つの段階に対応しています。
- シーン別のスタイル(文体)の好みとその理由:どのような場面で、なぜその文体を選ぶのか、その背景にある意図や心理を探りました。
- AIライティングアシスタントへの期待:ユーザーがAIに対して、具体的にどのような機能やサポートを求めているかをヒアリングしました。
2. システム設計と検証:CCCの機能とユーザーフィードバック
CCCのシステム設計と主な機能
クラスタリング分析とユーザーインタビューの結果を踏まえ、研究チームは対話型AIシステム「CCC」を設計しました。
このシステムの核となるのは、「構成案の作成」と「共同編集」という2つのプロセスで、そこにユーザープロファイルの生成やカスタマイズ機能が組み込まれています。このシステムには、4つの「コア機能」を搭載しています。
- シーンに応じたスタイルの識別:「プロフェッショナル」な場面か、「カジュアル」な場面かを自動で判別し、そのシーンに最適なトーンや内容へと調整します
- 構成案の作成:いきなり文章を書き始めるのではなく、まずAIが構造化された「構成案」を生成。ユーザーの思考整理をサポートし、スムーズな書き出しを助けます。
- 共同編集:言葉選び、口調のニュアンス、詳細さの度合いなど、ユーザーの好みに合わせた微調整(共同編集)が可能です。
- 多様なシーンへの柔軟な適応:ユーザーが主導権を持ちつつ、システム側からも文脈をくみ取った提案を能動的に行う双方向のアプローチ(混合主導型デザイン)を採用しています。

対話型AI「CCC」の全体像
1.ユーザープロファイルの生成
まず、システムがユーザーの役職、過去の投稿履歴、プラットフォーム上での行動パターンなどを参照し、「2つのシーン別プロファイル」を構築します。具体的には、ユーザーごとに、業務に適した「プロフェッショナル型」と、非公式で親しみやすい「カジュアル型」という2つの独立したスタイル設定を構築します。これらのプロファイルには、そのユーザーがよく使う語彙、言い回しの癖、トーンの傾向などが記録され、後のコンテンツ生成時に「その人らしさ」として反映されます。
2.構成案の作成
このステップでの目的は、執筆前に素早くアウトラインを形成することで、記述の一貫性を保ち、思考を体系化することです。仕組みは以下の通りです。
- ユーザーが入力したテーマ、現在のシーン、過去の投稿スタイルなどのデータを分析し、システムが複数の構成案を生成・提示します。
- 提示される構成案では「見出し」と「要点」が階層化されているのが特徴です。さらに、各セクションに盛り込むべき核心的な情報についても、併せてガイドラインが表示されます。
- ユーザーは提案された案をたたき台として選び、そこから自由に項目の追加・削除・修正を行うことができます。
3.共同編集
作成された構成案をベースに、ユーザーの具体的な要望に合わせて文章の微調整を行います。 仕組みは以下の通りです。
- カスタマイズパラメータを用いて、トーン、詳細度、スタイルなどを柔軟に調整し、目的や相手に合わせた最適な文章のニュアンスを設定可能です。
- 設定されたカスタマイズパラメータと、事前の「ユーザープロファイル」に基づき、システムがテキストをリライトします。また、単に変えるだけでなく、「なぜその修正を行ったのか」という理由もあわせて明示します。
- AIからの修正提案に対し、ユーザーは一箇所ずつ「採用」「却下」「再調整」を選択できます。これにより、納得のいく最終版を完成させることができます。
4.多様なシーンへの柔軟な適応:
一連の調整作業において、CCCは「双方向のインタラクション」を採用しています。 AIは、その場の状況や過去のデータに基づいて能動的にアドバイスを行いますが、最終決定がAIによって自動的に下されることはありません。ユーザーはいつでもAIの提案を修正でき、コンテンツに対する主導権を維持し続けることが可能です。
3. ユーザー調査と実験設計
CCCの有効性を実証するため、研究チームは比較実験を行いました。比較対象(ベースライン)として用意されたのは、テキスト生成能力のみを持つ「一般的なAIライティングツール」です。 このシステムには、CCCの中核機能である「ユーザープロファイル」や「個別のシーン識別機能」は搭載されていません。また、「構成案」や「共同編集」といった段階的なプロセスも排除されています。つまり、汎用的なAIアシスタントを用い、「一度の指示のみでメッセージの全文を一括生成させる」という、一般的な利用状況を再現した環境といえます。
本検証には、プロダクトマネージャー、研究員、エンジニア、インターンなど、多様な職種や立場にある10名が参加しました。実験では、参加者全員が2つのシステムを使用し、「業務関連」と「カジュアル」なメッセージを各2通ずつ、合計4通作成するという共通の課題に取り組みました。
実験終了後、研究チームは「書き手の体験」と「読み手の反応」という2つの観点からアンケート調査を実施しました。各項目の評価には、「1(非常に低い)」から「7(非常に高い)」までのスコアをつける「7段階評価」を用いました。
- 書き手の体験: 参加者は、AIとの協働感や操作のしやすさに加え、内容の充実度や「その人らしさ(真正性)」が保たれているか、そして今後の利用意向があるかといった点を比較評価しました。
- 読み手の反応:他の参加者が作成したメッセージを読み、作成されたメッセージの情報量や魅力、場面に対する表現の適切さ、そして全体的なクオリティを判定基準としました。
4. 研究結果:執筆体験とメッセージの品質における優位性
分析の結果、CCCはほぼすべての評価項目において、一般的なツールを上回る(p<0.05)成果を示しました。ここで特筆すべきは、唯一差がつかなかった指標が「生成スピード」だった点です。 これは、CCCが「構成案の作成」や「共同編集」といった丁寧な段階的プロセスを踏んだとしても、決して作業効率を犠牲にしていない(=スピードは落ちていない)ことを裏付けています。
【書き手の体験】
- AIに対する「パートナーとしての実感」:参加者の多くは、CCCの2段階のアプローチによって「AIと一緒に作り上げている」という実感を得ており、成果物に対する納得感やコントロール感が向上しました。一方、一般的なツールでは構成や下書きの段階で修正する余地がないため、「AIが勝手に作ったものを、ただ受け身で受け取るだけ」という感覚に陥りやすいことが分かりました。
- 認知的負荷の軽減:段階的に微調整できるCCCのプロセスにより、構想から推敲に至るまでのストレスが明確に減少しました。多くの参加者が、「細かい言い回しの修正に時間を取られることなく、コンテンツの中身の検討に集中しやすくなった」と回答しています。
- 「その人らしさ」の高い再現性:ユーザープロファイルと詳細なカスタマイズパラメータの効果により、CCCは個人の独特な表現スタイルを忠実に再現しました。例えば、普段からカジュアルな投稿にユーモアを交えるユーザーの場合、CCCはその傾向を正確に捉え、その人がよく使う絵文字や親しみやすい語尾を一貫して反映することができます。
【読み手の反応】
- 情報の網羅性と明確さ:業務連絡において、CCCは構成案に沿って項目を一つひとつ丁寧に展開する傾向があります。その結果、日時や場所、タスクの目的といった核心となる情報が明確に伝わると評価されました。
- TPOに適した表現:参加者の多くが、CCCのメッセージは「その場の雰囲気や期待されるトーンに合致している」と評価しました。業務シーンでは、感情的な表現を抑えた規律あるプロフェッショナルな言葉遣いを維持する一方、カジュアルなシーンでは、読み手に語りかけるような表現を自然に交え、親近感を高めることができていました。この高い適応力は、生成前にシステムが「シーン認識」と「スタイルマッチング」を行った成果です。
- 「その人らしさ」と人間味:参加者は、CCCが生成したメッセージについて「いかにもテンプレートのような文章」ではなく、「特定の個人が書いた、人間味を感じるメッセージのようだ」と指摘しました。これは、CCCがユーザーの過去のスタイルや、個人的な言葉選びの癖を学習・反映させていることに起因しています。
AIが実現する、パーソナライズされたライティングの新時代
本研究は、AIライティングアシスタントが「汎用的なテンプレートの生成」から、「文脈に応じたパーソナライズの実現」へと進化していることを示しています。もしあなたが、社内プラットフォームやビジネスチャットで頻繁にメッセージを発信しているのであれば、ぜひ一度問いかけてみてください。 あなたがAIに書いてほしいのは、「標準化された無難なメッセージ」ですか。 それとも、「真にあなたらしいコンテンツ」でしょうか。
UMUでは、こうした課題に応えるための実践的なコースとツールを提供しています。
AIメッセージ作成:職場のショートメッセージやメール作成に特化した実践コースです。「構想がまとまらない」「書き出しに悩む」「修正に時間がかかる」といった、執筆プロセスにおける認知負荷を軽減し、生産性を向上させます。
AIが文章をブラッシュアップ:内容の深掘りから文体(トーン&マナー)の調整、そして論理の正確性まで、文章の質を総合的に最適化します。AIを駆使した、プロフェッショナルなコンテンツ制作の「新たな常識」を習得できます。
UMU AI Tools:あなたの意図を深く理解する、プロフェッショナルなライティングパートナーです。 推敲、文章の展開、要約、校正といった実用的な機能を備えた「書き換えツール」を搭載し、洗練されたビジネスコミュニケーションをスピーディーに実現します。
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まずはコレから!
学びが変わる。組織が変わる。
生成AI時代に成果を生む、
UMUのAIラーニング戦略と事例を公開
UMU(ユーム)は、2014年にシリコンバレーで誕生し、現在では世界203の国と地域で100万社以上、日本では28,000社以上に導入されているグローバルAIソリューションカンパニーです。AIを活用したオンライン学習プラットフォーム「UMU」を核に、学術的な根拠に基づいた実践型AIリテラシー学習プログラム「UMU AILIT(エーアイリット)」、プロンプト不要であらゆる業務を効率化する「UMU AI Tools」などの提供により、AI時代の企業や組織における学習文化の醸成とパフォーマンス向上を支援しています。従業員が自律的に学び、AIリテラシーを習得・活用することで業務を効率化し、より創造的で戦略的な仕事に集中できる時間や機会を創出。これにより、企業の人的資本の最大活用と加速度的な成長に貢献します。