ATD-ICE 2026現地参加、デイリーレポート(DAY2:5月18日) – Prompt LiteracyからAgent Literacyへ、AIエージェント時代の人材開発 –

2026年5月17日(日)から5月20日(水)まで、世界最大規模の人材開発・組織開発関連カンファレンス「ATD-ICE(International Conference & Exposition)」が、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスで開催中です。会場はLos Angeles Convention Centerとなります。

 

ATD-ICE 2026現地参加者、UMUデリゲーションチームによるデイリーレポートをお届けします。本日はDAY2、5月18日(月)の現地の様子と、AIエージェント時代の到来を強く感じさせた学びのポイントの速報です。

UMUがATD-ICE 2026に参加する理由

ATD-ICE 2026は、世界最大規模の人材開発・組織開発関連イベントです。90カ国以上から10,000名を超える参加者が一堂に会しています。業界のトップランナーによる基調講演や、専門性を深めるさまざまなセッションが進行中です。最新のHRテクノロジーやソリューションを紹介する大規模な展示会も注目を集めています。

 

私たちUMUがこのイベントに参加する目的は、次の3点です。

 

第一に、グローバルな知見の獲得が挙げられます。世界の成功事例や研究成果から、日本の組織や個人に活かせる実践的な知識を吸収するためです。第二に、ネットワーキングの推進です。各国の専門家や実務家との交流を通じて、新たな視点や協業の可能性を探ります。第三に、最新ソリューションの把握を目指しています。UMUのサービスを進化させるためのヒントや、お客様に提供できる新しい価値を見つけ出すことが狙いです。

これらの貴重な情報を日本の人材育成に関わる皆様にいち早く、分かりやすくお届けします。組織と個人の成長に貢献することが私たちの責務といえるでしょう。

 


セッション参加レポート(DAY2)

DAY2は、AIエージェントを軸にしたセッションが急増した1日となりました。私たちUMU現地参加チームが参加したセッションの中から、特に注目すべき7つのセッションをご紹介します。最初に、UMUのウィリアム・リンツが登壇したアカデミックセッションの内容を独占公開しましょう。

 

【UMU登壇】生成AI時代における組織のAIリテラシー育成:Prompt LiteracyからAgent Literacyへ (Develop Organizational AI Literacy in the Age of Generative AI) / ウィリアム・リンツ

 

 

スピーカー: William Rintz(ウィリアム・リンツ)/ UMU, Global Program Director

キーワード: AIリテラシー, Prompt Literacy, Skill Literacy, Agent Literacy, エージェント型AI, RSTCC, タレントディベロップメント

 

セッション概要

 

UMUのグローバル・プログラム・ディレクター、ウィリアム・リンツが、過去2年連続のATD登壇に続き、2026年も登壇しました。テーマは「Prompt LiteracyからAgent Literacyへの進化」です。チャットボットへの問いかけ方を磨くプロンプトリテラシーから、エージェント型AI(自律的に複数ステップの業務を遂行するAI)を使いこなすエージェントリテラシーへ。その橋渡しとなる「スキルリテラシー(Skill Literacy)」という新概念が中心テーマです。ATDとの共同調査データと豊富な実務例で解き明かす内容となりました。

 

主要ポイントと学び

  • AIリテラシーの世界的進展(ATDレポート2025): 「先進レベル」の組織比率が2024年の18%から2025年には29%へ上昇し、「基礎・未経験レベル」は41%から26%へ減少しました。中核的なAI概念を従業員が理解していると回答した組織は36%から60%へほぼ倍増。一方で、約70%の組織が依然として先進レベルに到達しておらず、伸びしろは大きいと判明しました。
  • AIフルエンシーとAIマスタリーの違い: TD(タレントディベロップメント)専門職の73%が日々AIを利用しています(2024年は49%)。一方で、自分を「エキスパート」と評価する人はごく少数。「頻繁に使うこと」は「うまく使うこと」を意味しません。組織の課題は導入率ではなく、利用の質に移っています。
  • AIリテラシーの3段階モデル: 第1段階は Prompt Literacy(チャットボットとの対話による業務遂行)。第2段階は Skill Literacy(再現可能な業務を構造化されたAI支援ワークフローへ変換する力)。第3段階は Agent Literacy(複数ステップの業務を遂行するAIシステムを設計・管理・評価する力)。参考文献としてHwang, Lee & Shin (2023) のプロンプトリテラシー論、Chan (2023) のAIリテラシー定義(Holistic Competency & Virtue Education, 香港大学)が示されました。
  • RSTCCフレームワーク: 良いプロンプトの5要素を Role(役割)/Skill(能力)/Task(タスク)/Context(文脈)/Constraint(制約) で構造化する考え方です。「多様性採用プランの作成」を例に、AIに役割・能力・タスク・文脈・制約を明示すると、出力品質が安定すると示しました。
  • Autonomy(自律性)とAgency(行為主体性)の峻別: 現状の多くのAIエージェントは「自律性(人間が定めたゴールを、ステップ分解して実行する力)」を持ちますが、「行為主体性(自らゴールを定義し、優先順位を再構成する力)」までは持ちません。出典はMilosevic & Rabhi (2026) “Architecting agentic communities using design patterns” (arXiv)。両者を混同しないことが、現実的な期待値設定の第一歩と説きました。
  • 「スキル(Skill)」がエージェントの稼働基盤となる: スキルとは、業務手順・標準・例示・反例・ヒューリスティクスを構造化して、AIに「自社のやり方」を教える再利用可能な単位を指します。プロセス・リエンジニアリング(人手による標準化)から、プロセス・ディスティレーション(AIに業務ロジックを内在化させる蒸留)への進化と位置付けられました。
  • 5種類のスキル分類: 手続き的(Procedural)、条件的(Conditional)、規範的(Normative)、反パターン(Anti-pattern)、ヒューリスティック(Heuristic)。ロールプレイ結果のサマリー生成を例に、スキルがない場合は汎用的な要約しか出ないのに対し、スキルがあれば「コホート別の強み・弱み抽出」「レディネスルーブリックとの比較」「フォローアップコーチング提案」まで一貫して再現できると実演されました。
  • 個人の働き方のパラダイムシフト: 個人貢献者から、複数のサブエージェントを束ねる「セカンドラインマネージャー」への移行。ゴール設定、業務割当、出力レビュー、フィードバック、制約の精緻化が、個人の主要業務になります。
  • AI生成物の善悪は「プロセス」で決まる: 1ステップのコピー&ペーストは低価値・高リスク。一方、目的定義 → 文脈付与 → ソース活用 → ルーブリック適用 → 評価 → 修正 → 最終人間判断という多段ワークフローを経たAI生成物は、高品質を期待できます。出典はXu, Mao, Bai, Gu, Li & Zhu (2025) “Everything is context: Agentic file system abstraction for context engineering” (arXiv)。
  • タレントディベロップメントの3つの新たな役割: ①ケイパビリティ・トランスレーター(AIの変化を必要スキル・行動・マインドセットに翻訳する人)、②ワークフロー・デザイナー(業務の実態と専門性の所在を理解し、AIが支援可能な箇所を設計する人)、③ヒューマン・ジャッジメント・プロテクター(レビュー、倫理、文脈、共感、意思決定など、人間が担うべき領域を守る人)。

 

日本企業への示唆・実務への応用

 

少子高齢化による労働力不足が深刻化する日本にとって、AIエージェントは「個人の知的レバレッジを引き上げる」決定打となり得ます。一方で、ウィリアムが強調したように、AIの上限は依然として人間の認知帯域に縛られているのも事実です。日本企業が今すぐ着手すべきは、汎用ツールの導入ではなく、自社の「良い仕事の論理」をスキルとして言語化する作業ではないでしょうか。

 

具体的には、マネジャーのフィードバック準備やロールプレイ採点、研修ニーズ分析などが候補となります。品質のばらつきが大きく、かつ専門家の判断が必要な領域から1個のスキル化に着手することが現実的です。ジョブ型雇用への移行や、人的資本経営の文脈とも整合します。

 

属人的に蓄えられた暗黙知を、組織横断で再現可能な「スキル」へ変換することは、人事・L&D部門の中長期的な競争優位の源泉となります。「AIに置き換えられる人」ではなく「AIを使いこなして人間の判断を高める人」を育てる視点が今こそ重要です。

 

AIを活用した新しいトレーニング方法 ― ポッドキャスト、ノートブック、AIコーチ (New Ways of Training With AI − Podcasts, Notebooks, Coaches) / ガリマ・グプタ

 

 

スピーカー: Garima Gupta(ガリマ・グプタ)/ Artha Learning Inc.(アーサ・ラーニング社)創業者兼CEO 

キーワード: AIポッドキャスト, パーソナライズ学習, AIコーチ, 多言語対応, リソースパック

 

セッション概要

 

ラーニングデザイン企業Artha Learning Inc.のCEOであるグプタ氏が、AIで学習提供の常識を一新する3つの実践アプローチを紹介しました。テキストやスライドに偏った従来研修の限界を、最新のAI技術で突破する具体的な施策が披露されています。

 

主要ポイントと学び

 

  • AIポッドキャスト: テキストの単なる朗読ではなく、AIホストが学習者と対話する自動生成音声へ変換します。
  • ノートブック設計: 70言語以上に対応する即時翻訳と、職種に応じた事例の最適化でパーソナライズされた環境を用意する思想です。
  • コンテキストに応じたAIコーチ: コース内容を学習したAIを教材に直接埋め込み、時間や場所を問わず個別ガイダンスを提供します。専用Q&AアシスタントGPTによるウェビナー支援の手法も提示されました。

 

日本企業への示唆・実務への応用

 

日本企業に多いテキスト・集合研修中心の設計において、コンテンツの再利用性とエンゲージメントを同時に高める道筋を示しています。例えば、コンプライアンス研修を15分のAIポッドキャストへ変換すれば、通勤時間の活用で受講完了率の向上が期待できるでしょう。AIコーチを組み込むことで、自律学習が苦手な若手社員の質問ハードルを下げることも可能です。「研修を作って配る」発想から、「学習者に伴走する仕組みを設計する」発想への転換が問われています。

 

AIを活用したキャリア成長のパーソナライズ:大規模展開におけるアプローチ (Using AI to Personalize Career Growth—At Scale) / クリスティン・ディドナート

 

 

スピーカー: Christine DiDonato(クリスティン・ディドナート)/ Career Revolution(キャリア・レボリューション)社創業者(元ソニー・タレントディベロップメント責任者)

キーワード: キャリア開発, 組織的ギャップ, 思考パートナー, ボトムアップ設計, ワークフォース, 優先順位

 

セッション概要

 

元ソニーのタレント開発責任者であるディドナート氏が、社内インフラを整えてもキャリア開発ツールの利用率が上がらない構造的課題に切り込みました。AIを「資料の検索係」ではなく「思考パートナー」として位置づけ、個人の自己理解からボトムアップでキャリア支援をスケールさせる戦略的フレームワークを提唱しています。

 

主要ポイントと学び

 

  • 不確実性への対応: 従業員は変化ではなく将来が見えない不確実性に疲弊しています。キャリア開発は引き止め施策ではなく、重要タスクに集中するための「フォーカス戦略」へ再定義すべきだと主張しました。
  • 組織が抱える3つのギャップ: 期待(明確さの欠如)、能力(上司の過負担)、翻訳(リソースを行動に変換できない)の3つを定義しています。
  • AIの役割: トップダウンのツール提供ではなく、個人の「思考パートナー」や「会話の準備パートナー」として土台を支える役割を持たせ、下層のフレームワークを増幅させることが重要です。

 

日本企業への示唆・実務への応用

 

社内イントラに大量のeラーニングを並べても利用されない「翻訳のギャップ」は、多くの日本企業が抱える悩みです。解決策として、AIを受講者一人ひとりの思考パートナーとしてボトムアップの自己リフレクションに組み込むアプローチが有効となります。若手社員が自らの価値観をAIとの対話で整理し、1on1の準備に活用すれば、多忙な上司の負担を減らしつつ深い行動変容へつながるでしょう。

 

より賢く、より速く、それでも常に人間中心:次世代ラーニングデザインのためのAI活用 (Smarter, Faster, HUMAN: AI for Next-Level Learning Design)/ ブリトニー・コール、アン・ロリンズ

 

 

スピーカー: Britney Cole(ブリトニー・コール)/ Blanchard(ブランチャード), Chief Innovation Officer / Ann Rollins(アン・ロリンズ)/ Blanchard, Vice President, Design Studio | Chief Solutions Architect

キーワード: ラーニングデザイン, 生成AI活用, インストラクショナル・ストラテジー, ヒューマン・ファースト, 価値観

 

セッション概要

 

「人間らしさを損なうことなく、AIは個別化された学習体験の構築を加速できるか」という問いに対し、明確な肯定を示すセッションでした。生成AIと深いインストラクショナル・ストラテジー(教育戦略)を融合させ、常に人間第一を貫きながら業務を高速化する実践ワークフローが共有されました。

 

主要ポイントと学び

 

    • 領域の見極め: AIが効率化に貢献するタスクと、人間ならではのインプットが必要なタスクを明確に分解して整理することが、ラーニングデザインの第一歩です。
    • 価値観を核心に据えた導入: 学習者や組織の価値観を中心に置いたまま、教育ワークフローの恩恵を受ける部分にAIを統合する具体策が紹介されました。
    • 責任ある実験: 学習組織がAI導入を進める際に立てるべき、価値観重視の「問い」のリストが提示され、組織のAI実験を安全に導く指針となっています。

 

日本企業への示唆・実務への応用

 

AIで研修制作を高速化したいというニーズは日本でも高まっています。一方で、企業文化に合わないコンテンツが大量生産されるリスクも顕在化しつつあるのが実情です。本セッションが示す「価値観を起点に置く」設計思想は、日本のL&D部門にとって重要な防波堤となります。AIに下書きを作成させた後、必ず「自社の人材育成方針」や「現場の暗黙知」と照らし合わせるレビュー工程を設けるルール徹底が、品質と速度を両立させる現実解です。

 

リーダーシップの再配線:分断時代にチームを率いる (Rewiring Leadership: Leading Teams in the Age of Disruption)/ アン・ハーマン-ネディ

 

 

スピーカー: Ann Herrmann-Nehdi(アン・ハーマン-ネディ)/ Herrmann Inc.(ハーマン社), Chair and Chief Thought Leader

キーワード: BANI, リーダーシップ開発, メタ認知, 認知的柔軟性, コホート学習

 

セッション概要

 

VUCAに続く時代認識として BANI(Brittle/脆い、Anxious/不安定、Non-linear/非線形、Incomprehensible/不可解) を提示。「これは単なる変革の繰り返しではない。電気の発明に匹敵する『偉大な再配線(Great Rewiring)』を要する事態だ」と警告したのです。現代リーダーが直面する認知的課題と、その克服に向けた具体的な処方箋が、ワークショップ形式で共有されました。

 

主要ポイントと学び

 

  • 設計の問題: 70%の組織がリーダーシップに制度的な課題を抱えており、これは努力不足ではなく「設計の問題」だと指摘しました。
  • BANI時代の脳科学的課題: 不確実性下では脳の情報処理能力が狭まり、認知的柔軟性が低下するため、人は過去の慣れたパターンへ回帰しやすくなります。
  • 解決へのアプローチ: 自身の思考状態を観察する「メタ認知」の習慣化が意思決定品質を高めます。また、認知的安全性(Cognitive Safety)の点検や、行動変容を促すコホート学習の導入が推奨されました。

 

日本企業への示唆・実務への応用

 

VUCAという言葉が浸透した日本企業にとって、BANIは次に押さえておくべき概念といえます。研修工数を増やしても、認知科学的な裏付けがない設計ではリーダーの行動変容は起こりません。メタ認知トレーニングやコホート学習、数値化された成果指標の3要素を研修プログラムに組み込むことが重要です。心理的安全性に加え、「認知的安全性」という新たな視点を評価制度に反映させることが、不確実な環境を生き抜く鍵となります。

 

セールスコーチングを解き放つ:AI主導の不安定な市場で高業績チームを築く (Unlocking Sales Coaching:Building High-Performance Teams in a Volatile AI-Driven Marketplace)/ ジェブ・ブラント

 

 

スピーカー: Jeb Blount(ジェブ・ブラント)/ Sales Gravy(セールスグレイヴィ)社, CEO/Founder

キーワード: セールスコーチング, AIコーチング, CLEAR会話モデル, セールスコーチング・プレイブック, 1on1

 

セッション概要

 

セールスチームの成功におけるヒューマンコーチングの決定的な役割を論じ、AIコーチングの限界と鋭く対比させる内容でした。部下が期待通りに動かないという悩みに対し、ブラント氏は再現性のある体系的な手法を提示。それが、プレイブックとCLEAR会話モデルです。主体性と業績を高める最適解と位置づけられました。

 

主要ポイントと学び

 

  • AIコーチングツールの限界: AIコーチングツールは導入30日後に平均89%のユーザーが利用を放棄するというデータが示されました。信頼関係の構築やパーソナルなつながりがAIには欠落しているためです。
  • 1on1の再定義: 多くのリーダーが誤解している長時間の週次ミーティングを、週1回・10〜15分で完了する「現状把握(Finger on the Pulse)」の場へと再定義するよう提案されました。
  • 投資対効果の最大化: トップ層ではなく、成果に一貫性のない中堅層にコーチング時間を集中投資することが、最も高い成果を生み出します。

 

日本企業への示唆・実務への応用

 

目標達成型の指示マネジメントから、自走を引き出すコーチング型への転換は日本企業の急務です。「89%が30日で離脱する」というデータは、AI万能論に対する重要な警鐘といえるでしょう。実務への落とし込みとして、1on1を10〜15分の短時間・高頻度サイクルへ再設計することが有効です。また、伸びしろの大きい中堅層へ投資を集中させ、構造化された会話術をマネージャー研修に組み込むことで、組織全体の営業力底上げが期待できます。

 

AI時代における学習の神経科学 (The Neuroscience of Learning in the AI Era) / デイビッド・ロック

 

 

スピーカー: Dr. David Rock(デイビッド・ロック博士)/ NeuroLeadership Institute(NLI)共同創設者、書籍『Your Brain at Work』著者

キーワード: 神経科学, AGESフレームワーク, ヒューマンスキル, 洞察(インサイト), AIコーチ, Spacing(間隔学習)

 

セッション概要

 

神経科学に基づくリーダーシップ研究機関(NLI)の共同創設者、デイビッド・ロック博士が登壇しました。「AIは人の学びを劣化させている」という強いメッセージを発信しています。L&D担当者が脳科学の第一原理から学習設計を立て直すべきだと説き、独自フレームワーク「AGES」と実践的な処方箋を提示しました。

 

主要ポイントと学び

 

  • AIが学びを劣化させるデータ: 検索エンジン利用者の記憶喪失が11%であるのに対し、AIツール利用者は83%に達しました。AIに答えを出させると人は思考を放棄するため、インサイト(洞察)は生まれません。
  • 学習の本当のゴール: 修了テストの合格ではなく、「プレッシャー下での容易な想起」こそが学習のゴールです。
  • AGESフレームワーク: Attention(注意)、Generation(生成)、Emotion(感情)、Spacing(間隔)の4要素が揃わなければ長期記憶として定着しません。
  • PRESSモデル: 単発研修を廃止し、30日/90日のスプリント型設計を推奨しています。社会的圧力を活用して行動変容を担保する仕組みです。

 

日本企業への示唆・実務への応用

 

受講完了率や満足度ではなく、「プレッシャー下での容易な想起」を成果指標に据え直す必要があります。AGESフレームワークを用いた既存研修の棚卸しが第一歩となるでしょう。AIコーチは常時利用ではなく、スプリントの中で戦略的に配置するのが効果的です。「AIを使う場面」と「人が対話する場面」を明確に設計し分ける経営判断こそが、いまL&D責任者に問われる視点といえるでしょう。

ATD-ICE 2026での学びをイベントで終わらせないための「振り返り会」レポート

 

UMUデリゲーションツアーでは、一日の終わりにその日の学びを深め、共有するための「振り返り会」を設けています。ATD-ICE 2026では300以上のセッションが同時並行で開催される中、自分一人ではカバーしきれない多様な知見に触れる絶好の場となりました。

 

DAY2の振り返り会には、国内主要各社の人事・人材開発担当者、HRテックリサーチャー、新卒育成・営業育成・キャリア開発の企画担当者など、多様なメンバーが集まりました。参加者は4テーブルに分かれ、ファシリテーターの進行のもと議論を展開。それぞれのセッションから得た学びと、日本組織への応用案について活発に意見を交わしています。

 

第一に、「テクノロジー(AI)」から「人間(ソフトスキル・本質)」への回帰です。AIの機能や技術論の議論が一巡したことで、議論の重心は本質へと移りつつあります。「人が介在することのメリット」「リーダーに求められる人間的スキルの変化」「人事の仕事の目的そのもの」といった論点が、現地の空気感を形作っているのが印象的でした。

 

第二に、「ラーナーシップ(学び続ける仕組み)」と「適切な負荷」の重要性です。単発の研修で終わらせるのではなく、自律的に学び続ける仕組み(ラーナーシップ)への転換が急務といえます。また、あえて高いハードルや異なる人とのセッションという「強制的な負荷」をかける体験が、高い学習効果を生むという脳科学的・実践的なアプローチが注目を集めています。

 

テーマ1:「テクノロジー」から「人間」への回帰 — ソフトスキルと本質への注目

 

論点・問い

 

  • AI機能論の先に、人材開発担当者は何に向き合うべきか
  • 「人が介在することの意味」をどう言語化し、組織に伝えるか
  • リーダーに求められる人間的スキルはどう変化しているのか

 

参加者からのコメント・ディスカッション内容

 

  • 今年のATDの大きな潮流として、テクノロジー(ハード側)の議論が一巡し、人間のソフトスキルや人事の仕事の目的そのものといった本質への回帰が見られたという声が多く挙がりました。
  • 適性検査を提供する事業者からは、「適性検査は心理学だが、脳科学や神経科学の領域との接続に注目している。人をハックするのではなく、本質を理解して向き合うことが、AI普及下でこそ重要になる」との指摘がありました。
  • 「自分の感情に焦点を当てるセッションが多く、人間の内面の開発に焦点が当たっていく」という観察も共有されました。中身のシフトこそ重要だとの認識です。
  • EXPO会場のベンダー側メッセージも「AIで何でもやります」に近づいてきており、ユーザー企業の判断軸(どうAIを使ってもらうか)がますます重要になると整理されました。

 

明日へつながるアクション・今後の展望

 

  • エンゲージメントとセットになったタレントディベロップメント(人材開発)のヒントを、自社施策に取り込んでいきたい。
  • スキル評価の細かい議論ではなく、「人事の仕事の目的」を起点とした学びの再設計を意識する。
  • 「本質を追求する話の深さは日本より進んでいる」との総括もあり、目的志向での学びへの回帰を急ぐ必要があります。

 

テーマ2:脳科学が示す「適切な負荷」とラーナーシップの設計

 

論点・問い

 

  • 単発研修ではなく、自律的に学び続ける「ラーナーシップ」をどう設計するか
  • 脳科学的に効果的な学習負荷とはどのようなものか
  • AIの便利さに溺れず、思考力を維持する設計はどう作るか

 

参加者からのコメント・ディスカッション内容

 

  • 神経科学の観点から、AIの使いすぎは脳へのリスクがある一方、人の介在による記憶メリットも明らかであると学んだ、との共有が複数ありました。
  • 脳科学的に、人は「負荷をかける学び」が効果的であり、異なる人と強制的にセッションさせる仕掛けなどが有効だとの指摘が出ました。
  • EXPOで見たZ世代向けレジリエンス(折れない心)の出展が秀逸で、「ラーナーシップ(学び続ける仕組み)」の重要性を実感したとの声。
  • 「研修後のコーチング組み合わせ」が当たり前になっており、研修の単発実施からの脱却が前提となっていると整理されました。
  • 感情を紐付けながら自身の洞察を結びつける学び、分散学習(Spacing/間隔学習)、ソーシャルラーニングで適度な緊張感を持たせる設計の重要性が共有されました。
  • 街中で目にする広告の多くが記憶に残らないのと同様に、研修コンテンツも受講者の「注意(Attention)」を引く設計、特にタイトルの付け方や見せ方が極めて重要であるという実務的な気づきが共有されました。受講者が自発的に学びたくなるような、明日からの施策にすぐ活かせる実践的な工夫(tips)の必要性が示されています。

 

明日へつながるアクション・今後の展望

 

  • 役員向け研修施策に「強制的な負荷」をかけるトレーニングを検討。高いハードルを超える体験から成果を引き出したい。
  • 「単発研修」から「継続研修」への転換を模索する。
  • AIによって「考えてアウトプットする」プロセスが代替されてしまう時代だからこそ、学習の本質(脳を動かすこと)を理解した上で、あえてAIをどう活用するかを設計する。

 

テーマ3:経営戦略と連動する人材開発と「行動変容」のROI

 

論点・問い

 

  • 経営戦略とJD(職務記述書)、AI・人間の役割分担をどう接続するか
  • 研修ROIをどう測定し、満足度調査からどう脱却するか
  • 「自走」を促す教育設計とはどのようなものか

 

参加者からのコメント・ディスカッション内容

 

  • 組織開発手法(メンバー型・ジョブ型・スキル型)を語る前に、「自社が今後どう進むべきか」という経営戦略の方向性に合わせてスキルを定義することが重要だと再確認されました。
  • 職務内容(JD)が経営戦略に合致しているか、「どの業務をAIに任せ、どこを人間が担うのか」の切り分けはまだ曖昧であり、経営陣への丁寧なヒアリングで言語化する必要があるとの認識。
  • すべてのスキルを一度に求めると失敗しやすいため、まずは1〜2個の重要スキルに絞ったトレーニング設計が鉄則と整理されました。
  • 研修ROIに関して、満足度アンケートではなく「現場での行動変容」を測定すべきだという基本に立ち戻る議論が活発でした。経営戦略と人事施策を連動させたROI測定ができている日本企業はまだ少ないとの認識が共有されました。
  • 「自走」を促す設計として、一度きりの研修や過剰なサポートではなく、最終的に相手が自走できる仕組みを作ること、ベースに「人とのつながり」を置くことが重要との意見が出ました。
  • パーソナライズ教育の本質は「相手に問いを持たせること」であり、答えを教えるだけでは能力は伸びない、との指摘もありました。

 

明日へつながるアクション・今後の展望

 

  • 経営層の過去の経験に頼るのではなく、今後の事業展望を起点とした施策立案に着眼していきたい。
  • 「ROIをどう測定するか」という問いを、明日からの顧客提案フックに転換する。
  • 「問題解決型」の教育から「能力開発型」の教育へとシフトし、従業員の学び方そのものを変革する。

 

テーマ4:日本組織への応用 — 新卒育成の危機感と大企業の壁

 

論点・問い

 

  • ATDで議論された斬新なテーマを日本組織は受け入れられるか
  • 基礎業務がAIで代替される時代、新卒育成をどう再設計するか
  • 大企業の調整コストをどう乗り越えるか

 

参加者からのコメント・ディスカッション内容

 

  • ベンチャー気質やトップダウンが効く会社では、新しい施策の導入は早そう。一方、大企業では全社調整や既存ルールとの整合性を取るハードルが高く、一筋縄ではいかないのが現実だとの認識が共有されました。
  • 強い危機感として共有されたのは、「AIにより新人の間に覚えるべき基礎的な仕事をAIが代替できるようになってしまった。今後の新卒育成をどうすべきかを早めに検討しないと、日本企業の体力が低下するのではないか」という論点です。
  • これまで新卒社員は、泥臭い基礎業務や定型業務をこなすプロセス(適切な負荷)を通じて、業界の基礎知識や「自ら考える力」を養ってきました。しかし現在、それらの仕事の多くがAIで代替可能になっています。
  • ATDで議論された「AIによって人間の思考力が低下するリスク」「あえて負荷をかける学びの必要性」を踏まえると、下積みを通じた成長という従来の成功体験が通用しなくなっている、との認識が浮き彫りになりました。
  • 基調講演で印象に残ったのは「世の中が便利でよくなることと、裏返しとして人間の思考力が低下することの両面を見据えるべき」というメッセージでした。世界のリーダーの視座の高さ、政策・法律の議論からAIと人間という本質的なテーマへブレイクダウンしていく構成に圧倒されたとの声が複数挙がりました。
  • 「協働の科学」というセッションも印象的でした。人が単にタスクを分けるコオペレーション(協調)と、AIとのコラボレーション(協働)は次元が異なります。リーダーとしてコラボレーションをいかに作り出せるかが今後の鍵となるとの議論が交わされました。

 

明日へつながるアクション・今後の展望

 

  • 新卒の成長プロセスが消失しかねない今、育成のあり方を早急にアップデートする必要がある。中長期で次世代の担い手が育たなければ、企業競争力が致命的に低下するという共通の課題意識を持ち帰る。
  • 社内にAI活用の必要性を伝えるだけでなく、モチベーションが低い人に学ぶ意欲を持たせる「仕掛けづくり」を検討したい。
  • ATDで得た知見(行動変容の測定、ラーナーシップ設計、AIと人の役割分担)を、明日からの顧客提案・自社施策に組み込み、価値の連鎖(教育のインプット変化 → アウトプット品質向上)を作り出していく。

 

振り返り会全体を通しての総括

 

DAY2の振り返り会で最も多く語られたキーワードは「本質への回帰」でした。AI機能の競争は一巡し、議論の重心は「人がどこで介在するか」「リーダーの人間的スキル」「人事の仕事の目的そのもの」へと移っています。同時に、脳科学的な知見(適切な負荷、分散学習、ソーシャルラーニング)が現場の研修設計に直結するレベルで浸透してきました。

 

参加者からは共通する危機感が示されています。「カンファレンスの斬新なテーマが日本でどこまで受け入れられるかは未知数だが、基礎業務がAIで代替される今、新卒育成の再設計は待ったなしだ」というメッセージです。明日以降、各社が自社に持ち帰るのは、AI活用のテクニックではなく、「学習の本質を理解した上で、あえてAIをどう活用するかを設計する」という新しい人事の役割そのものです。

最速!ATD-ICE 2026 現地からの最新レポート! ~UMU アカデミックセッション登壇内容も独占公開~

世界最大級の人材開発カンファレンス「ATD-ICE 2026」の最速報告会、開催が決定しました。

 

2026年5月17日(日)から5月20日(水)にかけて、アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスで開催された「ATD International Conference & Exposition (ICE) 2026」。本ウェビナーでは、その熱気冷めやらぬうちに、現地で得られた最新のトレンド、ベストプラクティス、そして具体的なインサイトを、日本の人材育成に携わる皆様へいち早くお届けします。基調講演の総括、UMUウィリアム・リンツによるアカデミックセッション「Prompt LiteracyからAgent Literacyへ」の登壇内容、神経科学者デイビッド・ロック博士のAGESフレームワーク、BANI時代のリーダーシップ論まで、今年のDAY1からDAY4で得られたエッセンスを凝縮してお伝えする予定です。


ATD-ICE 2026 最速報告会シリーズ — 日本を代表するリーダーたちが読み解く最新の人材開発トレンド

関連リンク

・UMU公式サイト:https://www.umu.co/

・ATDコラム一覧:https://www.umu.co/column_category/atd/

・ATD-ICE公式サイト:https://www.td.org/ice

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    学びが変わる。組織が変わる。
    生成AI時代に成果を生む、
    UMUのAIラーニング戦略と事例を公開

    UMU会社資料

    UMU(ユーム)は、2014年にシリコンバレーで誕生し、現在では世界203の国と地域で100万社以上、日本では28,000社以上に導入されているグローバルAIソリューションカンパニーです。AIを活用したオンライン学習プラットフォーム「UMU」を核に、学術的な根拠に基づいた実践型AIリテラシー学習プログラム「UMU AILIT(エーアイリット)」、プロンプト不要であらゆる業務を効率化する「UMU AI Tools」などの提供により、AI時代の企業や組織における学習文化の醸成とパフォーマンス向上を支援しています。従業員が自律的に学び、AIリテラシーを習得・活用することで業務を効率化し、より創造的で戦略的な仕事に集中できる時間や機会を創出。これにより、企業の人的資本の最大活用と加速度的な成長に貢献します。